「――って、一輝の奴、どこにいるんだよ!」 氷河と瞬、それぞれの証言のあまりの食い違いに目眩いさえ覚えていた星矢と紫龍は、自分たちが城戸邸に戻って来てから一度も一輝の姿を見ていないことに、今更ながらに気付いた。 だが、星矢たちには、一輝を捜しに行く気力が湧いてこなかったのである。 氷河と瞬のどちらかが、あるいは二人ともが、嘘をついている。 氷河の言うことが嘘なのであれば、それは当然瞬を庇ってのことに違いないし、瞬の証言が偽りならば、瞬は氷河か一輝のいずれかを庇っているに違いない。 ここで一輝を引っぱってきて、その証言を聞いたところで、一層の混乱を招くだけのように思えたのである。星矢と紫龍には。 たった今まで事情聴取の場になっていた応接室のソファに腰をおろし、星矢と紫龍は嘆息した。 「氷河と瞬の証言で一致してるのって、つまり、二人が一晩中ヤりまくってたってことだけだろ? そんなの証言されたって困るよなー。ご立派ご立派としか言いようがないじゃん」 「確かに。二人のどちらかが嘘をついているのは確かだが、短時間に捏造した作り話にしては、どちらも妙に臨場感があったな。特に瞬のは……普段の瞬からは想像できない話だってところが、かえって本当らしいような気も――」 と、紫龍が言いかけた時、廊下を歩く乱暴な足音が彼の言葉を遮った。 連絡しておいた警察が来たのかと思い、二人が廊下に出ると、廊下の先に、ラウンジに向かってどかどかと大股で歩いていく一輝の姿。 「あ、おい、一輝、ラウンジには入るなっ!」 こういう場合は、現場保存が鉄則である。 星矢と紫龍は慌てて一輝を引き止めようとしたのだが、それはちょっとばかり遅きにすぎた。 「なんだぁ !? おい、沙織オジョーサマ! 飲む前からぶっ倒れてどーするんだ! ご注文の缶ビールの到着だぞ。こんなとこで寝てないで起きたらどうだ!」 ラウンジの床に横たわっている沙織の胸が真紅に染まっていることにも、一輝は気付かないのだろうか。 星矢と紫龍が一輝の両腕をがしっと取り押さえた時、 「いった〜い! やだ、私、頭がずきずきするわ。いったい何が起こったの!」 白いドレスの胸から赤い液体をだらだら滴らせ、後頭部を右手でおさえた沙織お嬢サマは、三人の聖闘士の前にぬぼ〜っと立ちあがった。 |