瞬が通学途中の自動車事故であっけなく十数年の生を終えてしまったのは、あと数日学校に通えば、高校での最初の1年も終わるという、春も間近な時期のことだった。 氷河はいつも、瞬がいない時には庭にある犬舎に繋がれていた。 “それ”を、彼にとっては当然の力で感じとった氷河は、自分を繋ぎとめている鎖を引きちぎって、瞬の叔父夫婦の家から二駅も離れている事故現場へと疾走したのである。 無謀運転をしていた車のドライバーは即死していたが、瞬はちょうど救急車に運び込まれようとしているところだった。 突然ストレッチャーに飛びついてきた大きな犬に驚いた救急隊員は氷河を追い払おうとしたのだが、どう考えても病院に着くまではもたないと思われていた瀕死の少年が、奇跡のようにその瞼を開け、狂ったように吼え続ける犬に手を伸ばすのを見て、隊員は氷河を追い払うのをやめたのである。 瞬は、そして、肺の損傷を考えると到底発することができないはずの声を、氷河のために紡ぎ出した。 「氷河、ごめんね……。僕はまた氷河を一人ぽっちにしてしまう……。ごめんね、ごめんね、氷河……」 まだ幼稚園を出たばかりだった瞬が、初めて氷河に出会った桜の前の季節。 なぜ自分がこんなにも氷河に惹きつけられるのかと疑ってみることすらせず、ひたすら氷河と共にいることを願った幼い時。 その時にはわからなかった理由を、死の腕に抱かれかけた瞬ははっきりと思い出していた。 これが初めての死ではないこと。 これが初めての別れではないこと――を。 「ごめんね、氷河。僕を許して……」 それが、瞬の最期の言葉だった。 |