桜の精を手懐けるために、俺は随分と――まあ、頑張った。非常に楽しみつつ。
瞬はすぐに、俺の愛撫に夢中になり、おそらく、俺以上に満足しただろう。
くたくたになって睡魔に囚われかけている瞬は、実に素直だった。
「も、駄目。疲れた、眠らせて」
「寝かせてやるから、答えろ」
「ん、おやすみ」
「気持ちよかったか?」
「うん」
「また、したいだろう?」
「うん、後でね」
「本当だな」
「うん」
「じゃあ、今日にでもこのホテルを出払って、俺の家に来い」
「うん」
「約束だぞ」
「うん、おやすみなさい」

――それを説得と言っていいものかどうかはわからない。
ともかく、そういう訳で、瞬は俺の住む家にやって来た。
自分では人間に戻ったと言っているが、まだ少々変わったところは残っている。
が、もともと頭のいい子だったらしく、何事につけ、打てば響くような反応を返してもくる。
大学でも、少し変わった秀才で通っているらしい。

俺が『良くない性癖』を『気持ちのいいこと』だと言いくるめるために、毎晩必死に励んだせいか、瞬は、この頃になって、
「バレなきゃいいのかな?」
と、本物の人間のようなことを言い出し始めた。
俺は、瞬を抱きしめるたびに、桜の花に埋もれて死ぬのもいいかもれないと、西行法師のような感慨を抱くことが多くなったような気がする。
少し、桜の精になりかけているのかもしれない。






終   






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