「え? 氷河、初めてなの?」 瞬は、氷河の意外な告白を聞いて、その瞳を見開いた。 「今まで、誰も教えてくれなかったの? 氷河にだったら、誰だって……その……喜んで教えてくれたと思うけど……」 「教えてほしいと思うような奴に会ったことがなかった」 照れ隠しなのか、普段にも増して無愛想な氷河の様子に、瞬は口許をほころばせた。 「僕ならいいの?」 世の中に、こんなにも尋ねるのが楽しい質問があるだろうか。 「……」 短い沈黙の後、初心者・氷河が微かに瞬に頷く。 瞬は、天にも昇る心地だった。 なにしろ、氷河が、氷河の“初めて”を自分にくれると言っているのである。 「嬉しいな。僕、喜んで教えてあげる。うんと優しく、ね」 瞬は、口許に浮かんでくる微笑を抑えることができなかった。 これは、なにしろ、そうそう経験できることではない。 自分よりも年上の人間に、“初めて”を教えるなどということは。 「あ、じゃあ、横になれるとこ行こ? 僕の部屋と氷河の部屋、どっちがいい?」 「………」 「ここでもいいけど……誰か来るかもしれないでしょう? 氷河、それでも平気?」 ラウンジの長椅子に手を置いて楽しそうに尋ねた瞬に、氷河が低い声で短く答える。 「おまえの部屋がいい」 「うん」 にっこりと微笑して、瞬は、氷河の手を取った。 自分よりずっと大きい氷河の手が、“初めて”に緊張しているのが、指先から伝わってくる。 買ってきたばかりのランドセルを嬉々として背負いつつ、やがて始まる学校生活に不安を覚えている幼い子供を見ているようで、瞬は、氷河のその様子に微笑を禁じえなかった。 |