「広い肩……」


氷河に跨った瞬は、筋肉の付き方が自分とは全く違う氷河の広い肩に、恍惚となった。
撫でるように氷河の背に触れながら、上体を氷河に重ねるように倒し、その耳元に囁く。
「どう? これだけでも気持ちいいでしょう?」


氷河は、おそらく、“気持ちいい”というよりは“こそばゆい”と思っているのだろう。
少し考え込む素振りを見せてから、しかし、彼は瞬に「ああ」と短い返事を返してきた。
氷河の中では、じわじわと、快感がこそばゆさを凌駕し始めていたのかもしれない。


瞬は、氷河のその返事が嬉しかった。
氷河を気持ちよくしてやるためになら、どんな手間も惜しむまいとすら思う。
そうして、瞬は、その手を肩からもっと下に移動させ、これまで培ってきた技術の全てを駆使して、氷河の身体を刺激し始めたのである。

「こんなふうに、こんなとこを撫でてあげるとリラックスできるの。氷河、なんだか緊張してるみたい……。そんな緊張しないで」

緊張していたのは、しかし、もしかしたら瞬の方だったかもしれない。
舌で自分の唇を舐めた時、瞬は初めて、自分の唇がひどく乾いていることに気付いた。

「でも、優しく撫でてるだけじゃ駄目なんだよ。こんなふうに力を入れてみたり、力を抜いてみたりして、筋肉をほぐしてあげて……」

氷河の身体を変える行為に夢中になりすぎて――。

「ふふ」


瞬は、氷河の身体の変化を、自らの指で感じ取れることが楽しくてたまらなかった。
最初は緊張して強張っていた身体が緊張から解放されるのが、そしてまた別の緊張が彼の身体の中心から湧きあがってきているのが、氷河の身体が熱を帯び始めているのが、はっきりと確かめられるのだ。
自分の手が、指が、氷河の身体を変化させている――。
その事実は、瞬を、何か不思議で、どこか奇妙で、何故か誇らしい――そんな気持ちにさせた。

「上体だけじゃないの。腕や首筋や脚なんかも…こんなふうに……」
瞬の手は、氷河の身体のあちこちに、まるでさまようように延び、そして触れる。

「どう? 気持ちいいでしょう? 気持ち良くない?」
「いや、いい」
氷河は、いつのまにか目を閉じていた。

多分快感をより深く感じるためにはそうしていた方がいいと――彼はこの短い時間のうちに気付いたのだろう。
それを確認して、瞬は少し指先に力を込めた。

「あのね、氷河。ちょっとだけ痛くしてもいい? 我慢してくれる? きっとすぐに慣れるから」
「慣れる? どういう意味だ」」
そう尋ね返してくる氷河に、瞬は、切なげに瞳を眉根を寄せた。

「いや、氷河。どうして、そんな意地悪言うの……。これから毎晩、二人でしようよ。ね、明日から毎日……気持ちいいでしょ? 明日もしたいって思うでしょ? 毎日繰り返していれば、もっともっといい気持ちになれるよ。初めての時は、ちょっと緊張してるから痛いかもしれないけど、毎日繰り返してれば、身体も慣れてきて、きっと……。氷河、今日僕が教えてあげたこと、明日は僕にして。ね、僕も気持ちよくなりたいの。二人で……これから毎日ずっと……いいでしょう?」

瞬の瞳は愛をねだる猫のように輝き、その指は、その猫の背を撫でる飼い主のように妖しい。 強く弱く優しく激しく繰り返される瞬の愛撫――に、氷河は、それ以上平常心を保っていることができなかった。






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