瞬の爆弾宣言から5分後。
なんとか気を取り直した一輝は、氷河を嘲るように言ったのである。

「面白い。氷河、瞬がああ言ってるんだ。やり方を教えてやれ。そして、貴様は今夜受けの大役を果たすんだ」

とにかく一輝は、目に入れても痛くないほど可愛がっていた弟といつのまにか公認関係になってしまったこの毛唐男が大嫌いだったのだ。
もともと相性が良くないところに、最愛の弟を掠め取られてしまったのだから、それも仕方のないことではあったろうが。

孤独を気取って仲間たちに距離を置き、その実仲間たちとの強い絆を保っている一輝とは対照的に、氷河は物理的には仲間たちの側にいるのだが、心情的に仲間たちとの繋がりが希薄なのである。
彼は、自分から他人との関わりを求めることが滅多にない。

瞬だけが、氷河が自分から積極的に関わりを求めているただ一人の人間で、故に、彼と仲間たちとを繋ぐただ一本の線。

氷河からそのただ一本の線を奪うことは残酷だろうし、また、氷河自身、死んでも瞬を失うつもりはないのだろうと思えばこそ、そして、それより何より、瞬の涙の懇願に負けてしまったからこそ、ひたすら理解のあるいい兄を演じ続けていた一輝だったのだ。


そのどーにも気にいらない男が瞬をいいように扱っているのだと思うだに腸が煮えくり返っていた一輝だったのだが、その立場が逆転するとなると、これほど楽しいこともない。

『瞬が攻め』という非常識極まりない話にしばし呆けてしまった一輝は、だが、その逆転の発想の楽しさに、遅ればせながら気付いてしまったのである。
この、冷めた振りの妙にうまい(それは当然、“振り”に決まっているのだ)無愛想男の慌てふためく様が見られることを期待して、一輝はにやにやと氷河に嘲笑を投げかけた。


だが。





「構わんぞ、俺は」




氷河の答えは、一輝が期待していたそれとは全く違っていたのである。

「なに?」

「瞬と寝られるのなら、俺はどっちでも構わんぞ。瞬が本気で知りたいというのなら、喜んで教えてやる」

氷河は、慌てた素振りのかけらも見せず、至極あっさり、そう言ってのけたのだ。



「…………」

毛唐の考えるていることが全く理解できず、一輝は言葉を失った。
それは、一輝には到底耐えられないことだったのだ。
その耐えられないことを瞬に強いているのだと思うからこそ、一輝の氷河への憎悪はいや増しに増していたのである。

それを『どっちでも構わない』とは。

これは、その程度の問題なのだろーか。
そんなことを気にするのは、古いタイプの人間なのだろーか。
はたまた、愛があれば(;;)それはどうでもいいことなのだろーか。



「さあ、瞬。教えてやるから一緒に来い」

そうして、氷河は。
混乱を極めている一輝を尻目に、そろそろ酔いも醒めかけて不安そうな目をし始めた瞬を、平生と全く変わったところのない様子でラウンジから連れ出していってしまったのである。






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