自分が何をされたのかがわかっていないわけではないのだろうが、瞬には、まるで後悔の色がなかった。 歓喜と苦痛、快感と物狂おしさ、相反する感覚と感情を一度にその身体と心に受け止めることを強いられて、泣き、喘ぎ、淫らに乱れ、自分から求めたはずの相手に解放を懇願することまでしておきながら、瞬は、嵐が過ぎ去ると光風霽月、氷河が面食らうほどポジティブな空気だけを身にまとっていた。 あるいは、これで大切な玩具を手放さずに済むと、瞬は信じ込んでしまったのかもしれなかった。 「あのね、氷河。僕、すごく大事な秘密を氷河に教えてあげます。誰にも言わないでくださいね」 ベッドに潜り込んできた猫のように氷河の胸にじゃれつきながら、瞬が屈託のない眼差しを氷河に向けてくる。 「秘密? どんな秘密だ?」 身体だけでなく“秘密の共有”などという手を使って、相手を自分に縛ろうとするのは、大人も子供も変わらないのかと、氷河は瞬の髪を撫でながら思うともなく思っていた。 氷河は、可愛らしく狡賢い仔猫の毛並みを愛撫するのに気を取られていて、その小さな猫がどれほど大きな秘密を抱えた存在だったのかを失念していたのだ。 「僕が持ってるたった一つの秘密なんです。IBELIEVEYOU。 I believe you」 「うん? それのどこが秘密なんだ? それは単なる俺への……」 愛の告白や、信頼を告げる言葉であるはずがない。 瞬の秘密が、それだけの意味しか持たないものであるはずがないではないか。 瞬の肩に伸びかけていた氷河の手は、一瞬強張った。 氷河の不安は的中し、瞬がにっこりと氷河に向かって微笑みかけてくる。 「僕の研究所のホストコンピュータの管理者用パスワードなんです。僕が決めたんですよ」 「瞬!」 氷河は、本来の目的物を手に入れて、絶望的な気分になった。 |