星矢はリュックの中からお菓子の箱を取り出すと、半分を他に分け、
「半分だけだぞ」
と言って、残りの半分を俺の方に差し出してきた。

俺は、けど、それを受け取るのをためらった。

「おまえ等は食わないのか」
「あんたほど、くだらないことに体力使ってないんでな」
「…………」
子供に同情されて、世話してもらって、そうされることに苛立っていた俺は、初めてそんな自分を恥ずかしいと思った。

「すまん。でも、いいんだ。それは、おまえらが食え」

俺の殊勝なセリフに、星矢はびっくりしたようだった。

「おまえらの方が、俺なんかより、何かあった時泣いてくれる人間が多そうだ」

多分そうなんだろう。
そして、多分、そんな人間の方が生き延びる価値があるんだ。
俺みたいに性格のヒネた出来損ないよりずっと。

瞬は、俺の言葉を聞いて、少し慌てた様子を見せた。
そして言った。

「そんなことはないんですよ。僕たちには両親はいないし、仲間たちはみんな強いから、僕たちに何かあっても、ちゃんと乗り越えてくれるんです。ただ一人だけ、それが期待できない人が僕にはいるもので……。僕が甘やかしすぎたせいなんだけど……」

「カノジョか? ヒョーガって、おまえの」
「え? ええ、まあ、そんなところです」

瞬は変に言葉を濁らせ、そんな瞬を見て、なぜか星矢が笑ってる。
俺はまた何かバカなことを言っちまったんだろーか?

「星矢。何を笑ってるんだ?」
「べっつに〜」
「だって、他にどう説明すれば……」

と、その時だった。
瞬が急にぱっと顔をあげて、トンネルの片方の出口を振り返ったのは。

「氷河……!」

「お、ほんとだ。さすがに瞬が他の男と一晩過ごすのは許してくれねーかー」


瞬たちが何を言っているのか、俺にはわからなかった。
俺が瞬たちのやりとりに首をかしげるまえより先に、崩れ落ちた岩盤の向こうから人声が聞こえてきた。
叫び声が岩盤を通り抜ける間に岩に吸い取られたような、微かな声だったが。

「瞬! 瞬、いるのか!?」

「氷河、僕、ここだよ!」
瞬が、岩の向こうに向かって声を張り上げる。
その声が届いたのだろう。

「瞬!!」
岩壁の向こうの声は、急に元気になった。

「星矢と僕の他にもう一人いるの。だから出られなくて」
「わかった。トンネルの反対側の方に避難してろ。すぐに岩を取り除けさせる!」





岩盤が取り除かれるのに、それから1時間。
俺たちは、残りのお菓子を3人で分け合って食いながら、その時を待った。


トンネルの外では、既に、早朝の水色の空に太陽が昇っていた。





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