それが壮絶な闘いだったことは想像に難くなかった。 ジュデッカのハーデスの玉座の周辺には多量の血の跡が――不死鳥の血の跡が――残っていた。 一輝が、何十億という地上の人間の命と愛する弟の命のどちらを選んだのか、それは星矢にも紫龍にもわからない。 彼らにわかったのはただ、一輝がハーデスに敗れたということだけ。 辺りに立ちこめる血の匂いに動じた様子もなく、冷ややかな目をした冥界の王が玉座に就いて星矢たちを出迎えたということは、つまり、そういうことなのだ。 おそらく。 一輝は弟を――弟の命を――選んでしまったのだろう。 あるいは、最後まで迷い続けたのだろう。 だが、星矢も紫龍も、一輝を責めることはできなかった。 冥界の王の玉座の周囲には、まだ一輝の哀しみが漂っていた。 愛する者を守るために得た力を、愛する者に向ける苦しさ。 星矢と紫龍はそれぞれの胸に己れの愛する人々の面影を思い起こして、一輝の懊悩を我が物とし、一輝のために瞑目したのである。 |