氷河は――氷河自身は、自分に大切な人が存在するという、その事実だけで満足していたそれまでの自分を後悔していた。
瞬を抱きしめた自分を後悔してはいなかった。

後悔のしようもなかったのだ。
他の何も目に入っていないかのように自分を求めてくる瞬が、その瞬が自分の腕の中にいるということが、氷河には、目眩いすら覚えるほどに美しい幸運に思えたから。

瞬もそうだったのだと、氷河は思っていた。

でなければ、ほとんど言葉も交わさないままで、互いの肌と肉と情火とを与え合い奪い合えた理由がわからないではないか。
まるでそうすることが人に生まれた者の義務だとでもいうかのように、定めだったのだとでもいうかのように、引き寄せられ、取り込まれ、離れることに苦痛を感じるほど溶け合うことのできた、その理由が。


ただの、真昼の、一時の狂熱だったとは、氷河は思いたくなかった。


氷河は、だから、その詩が、欲していた者を手に入れて満足していればいいはずの瞬に、幸福に酔っていればいいはずの瞬に、影を落としているようで――落とさなくてもいい影を落としているようで、

不愉快で不安だった。





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