地球や星矢世界の都合なんかは、けれど、氷の国星の小人たちにはどうでもいいことだったようです。
実は、氷の国星の小人たちは氷の国星の小人たちで氷の国星の小人たちなりの大きな問題を抱えていたのです。

「ところで、おっきい瞬ちゃん。僕たち、僕たちの氷河がお迎えに来てくれるまで、ここで待っていなくちゃいけないの」
「遭難したら、非常用食料を食べなきゃならないの」
「非常用食料を食べる時には、手を洗わなきゃならないの」
「外からお家に戻ったら、うがいもするの」
「そうしたら、僕たちの氷河は褒めてくれると思うんだ」
「氷河にヒミツのオマケ入り結晶クッキーお徳用パックを買ってもらうためには、あの方法の前に、まず、いい子でいなくちゃね」
「僕たち、お利口― !! 」× 15


「…………」(←氷河の絶句)
「…………」(←瞬の絶句)
「…………」× 15(←メイドロボたちの絶句)


「だから、洗面所貸してちょうだい」
「だめだよ、13号。ここは、『貸してください』って言わなきゃ、氷河に褒めてもらえないよ」
「あ、そっか。ごめんなさい、今の訂正。貸してください。僕がドジっちゃったことは、氷河には言わないでね」
「『言わないでください』だよ」

「あ、そーだ。言わないでください」
氷の国星の13号は、慌てて自分のミスを訂正しました。
今回は、3秒以内の訂正ですからセーフです。

「よその人に失礼なことすると、僕たちの氷河、とっても怒るの」
「厳しいよね〜」
「大目に見てくれないよね」
「その日は、おやつ半分だもん」

氷の国星の小人たちは、自分たちが謎の小人だという自覚があるのかないのか、重要な謎以外のことなら、いくらでも喋ってくれます。

「カッコいい氷河さんもそうかしら」
「ねえ、どう?」

氷の国星の小人たちのお喋りに半ば呆然としていたメイドロボたちは、急にそんなことを訊かれても、しどろもどろの返事しかできません。
「あの……氷河様はとっても優しいけど……」

「ふぅーん、いいなぁ」
「でも、僕たちが好きなのは、僕たちの氷河だけだもんね」
「厳しいとこがいいんだよね」
「褒めてもらえると嬉しいもんね」

怯えているメイドロボたちを気の毒そうに見詰めていた氷河は、本当は、氷の国星の小人たちに、
『ウチの子たちは、叱られるようなことをしないだけだ』
と言いたかったのです。
けれども、氷の国星の小人たちは、氷河に口をはさむ隙を与えてくれませんでした。


「うん。だから、洗面所貸してください(←丁寧)」
「ハンドソープと、ハンドタオルと、うがい用のコップも貸してください(←とても丁寧)」
「それから、非常用食料を食べるから、ナイフとナプキンも貸してください(←かなり丁寧)」
「食べた後はお昼寝するから、眠る場所も用意してください(←もちろん丁寧)」
「目覚まし時計はかけないでください(←でも図々しい)」
「おっきな音がすると、心臓が止まっちゃうもんね」
「だよね〜!」× 15

「あ……あの……」

メイドロボたちは、謎に満ちた氷の国星の小人たちをこの場から連れ出してもいいのかどうかを迷って、テーブルの上から、氷河と瞬を見上げました。
氷河が、少々疲れた様子で、メイドロボたちに頷きます。

「じゃ、洗面所にご案内します。こちらにどうぞ……」
メイドロボたちは、まだ少しびくびくしながら、氷の国星の小人たちを洗面所に案内することになりました。
もちろん、氷の国星の小人たちよりメイドロボたちの方が、言葉も仕草もずっと丁寧です。


「よーし、洗面所に行くぞー!」
「ラジャー!」
「三列縦隊、スタンバイOK!」
「位置につけ!」
「よ〜い、どん!」

氷の国星の小人たちは、再び、あっという間に見事な三列縦隊を作り、移動可能体勢になりました。


「…………」(←氷河の絶句)
「…………」(←瞬の絶句)
「…………」× 15(←メイドロボたちの絶句)

けれど、氷河と瞬とメイドロボたちにはもう、氷の国星の小人たちの機敏な行動に感心してみせる気力も残っていません。

「あれ?」
氷の国星の小人たちは、今度は感心してもらえないので、ちょっと不満そうでした。
けれども、小人たちは、すぐに得意の自己完結です。
「気にしない、気にしなーい」

「よーし、全員、足踏み開始―!」

リーダーの(でも、誰がリーダーなのかはわからない)号令一下、氷の国星の小人たちは、ざっざっざっざっ★ と足踏み開始です。
そうして、氷の国星の小人たちたちは、案内役のメイドロボたちが洗面所に案内してくれるのを待つことになったのでした。


けれど……。


「…………」(←氷河の絶句)
「…………」(←瞬の絶句)
「…………」× 15(←メイドロボたちの絶句)

氷河と瞬とメイドロボたちは、まだまだ、またまた、あっけにとられたまま。


かくして、事態が1歩も前に進まないまま、お話は次回に続くのです――。







【次回予告】