さて、ここで再び、説明しよう。

最近発売された絶対焦げつかないフライパンと、絶対上手に焼けるパンケーキの素のおかげで、パンケーキは、今のところ、瞬が作れる最高水準の料理になっているのである。

このマスターしたての料理を作りたくて仕方がない年頃の瞬なのだった。



──とまあ、色々な事情が複雑に絡み合った結果、瞬とメイドロボたちは、キッチンでパンケーキ作りを始めたのです。

「1号ちゃん、そこのお粉とって」
「はい」
「2号ちゃん、卵出してくれる」
「はい、6つでいいですね」
「3号ちゃん、牛乳をカップ3杯量って」
「はい」
「4号ちゃん、マーガリン出して」
「はい、使う分量に分けときますね」
「5号ちゃん、6号ちゃん、7号ちゃん、8号ちゃんは生クリーム作る用意してね」
「はい」× 4
「9号ちゃん、10号ちゃん、11号ちゃんはパンケーキに添える果物を用意して」
「イチゴとバナナとキウイが冷蔵庫にありましたけど、それでいいですか?」
「うん。あ、12号ちゃん、ハチミツも出しといてね」
「はい」
「13号ちゃん、14号ちゃん、15号ちゃんは食器の準備をお願い」
「はい」× 3



キッチンで楽しそうに立ち働く瞬とメイドロボたちを、再び、期待と甘い予感の混じった眼差しで見詰める人影がありました。
もってまわった言い回しをするまでもなく、それは氷の国星の小人たちです。

「……パンケーキだって」
「これも初めて聞くね」
「なんだかおいしそうだね」
「うん、とってもおいしそうだね」
「甘い香りがするよ」
「うん、とっても甘い香りがするね」
「でも、プリンをもらったばっかりだよ」
「浅ましい真似をすると、氷河が悲しむもんね」
「氷河が悲しい顔するの思い浮かべただけで、僕、泣きたくなっちゃう……」
「僕もだよ……」

「僕たちって、デリケートだもんね〜」× 15


■注■ 『デリケート』というのは、繊細で感じやすいという意味です。


「そうだ! 僕たちもお手伝いすればいいんだよ」
「そっか、お手伝いのご褒美にパンケーキをもらえばいいんだね」
「労働の報酬だから、もらってもちっとも恥ずかしくない!」
「汗水流して働いて欲しいものを手に入れるのはリッパなことだって、氷河、言ってたもんね」
「僕たちって偉いよね」

「偉いよね〜!」× 15


■注■ 『偉い』というのは、優れていて偉大だという意味です。


氷の国星の小人たちが、デリケートで偉大なのかどうかの判定はともかくも、彼等が前向きで努力家なことだけは事実でした。

「──というわけで、おっきい瞬ちゃん、僕たちもお手伝いします!」

「ありがとう。でもお客様は座って待ってていいんだよ」
キッチンで小人が30人も入り乱れることになったら、大変な騒ぎになるような気がしたので、瞬はそう言って遠慮したのですが、氷の国星の小人たちは食い下がりました。

「ぜひ、手伝いたいんです」
「僕たち、宇宙のおいしいお菓子を探す旅に出たの」
「おいしいお菓子がどうやって作られるのか知ることも大事なの」
「探求心があるよね、僕たちって」
「うん、勉強家だよね」

「ほんとだよね〜!」× 15


氷の国星の小人たちの労働意欲と探究心と向学心(と食欲)には、並々ならぬ熱意が感じられました。
その熱意に打たれた(と言うより、押された)瞬は、とりあえず、氷の国星の小人たちにメイドロボたちのサポートをしてもらうことにしたのです。
「うん、それじゃ、お願いするね」

氷の国星の小人たちは、もちろん大喜び。

「ラジャー!」
「総員、担当配置確認!」
「了解!」
「位置について」
「よ〜い、どん!」

いつもの合図と号令で、さっそく労働開始です。







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