しかし。 哀しいながらも挫けない男である氷の国の氷河は、そのまた翌日には、小人たちから××への恐怖を取り除く、新たな計画に着手していたのです。 名付けて、 『大人のたしなみ、××ダンス計画』! それは、歌が駄目なら、次はダンスで――という、実に安直な計画でした。 たれたれ氷河さんとたれたれ瞬ちゃんの暮らすあったかい国は、氷の国と違って便利なものがたくさんあります。 レンタルビデオ屋さんも、その一つ。 氷の国の氷河は、あったかい国のレンタルビデオ屋さんで、某年に開催された国際フィギュアスケート大会の記録ビデオを借りてきたのです。 (誰ですか、『えっちビデオを借りてきた方が手っ取り早いんじゃない?』なんて言う人は。そんなものを借りる度胸は、氷の国の氷河にはありませんよ) 小人たちは、さすがに、二日酔いも抜けて元の元気な小人たちに戻っていました。 たれたれさん宅の居間のテレビとビデオデッキを借りて、氷上の華麗なダンスの上映会です。 もともとダンス好きな小人たちは、あったかいところに来てからしばらく見ていなかった氷の床に郷愁を刺激され、しかも、普通のダンスよりもスピードに勝り、ジャンプや回転の華やかな銀盤の上でのダンスに魅入られて、画面を食い入るように見詰めていました。 小人たちが氷上のダンスに夢中になっている様子を見て、氷の国の氷河は、これはかなり期待できそうだと、わくわくしていました。 「なあ、おまえたち。こういうのを俺とやってみたいと思わないか?」 「綺麗だね〜(ぽわ〜ん)」× 15 「熱烈に愛し合う恋人たちの燃えるような情熱をダンスにしてだな」 「かっこいいよね〜(ぽわわわわ〜ん)」× 15 「俺と二人でベッドで演じてみたいと思うだろ?」 「ペアのアイスダンス、特に綺麗〜(ふわわわわ〜ん)」× 15 「そうだろう、そうだろう。ロマンチックな曲に乗ってだな」 「うんうん。やってみたいね〜(うっとり〜)」× 15 「そ……そうか! やってみたいか!」 小人たちは、すっかりその気になっているようです。 氷の国の氷河は内心小躍りしながら、小人たちの“その気”を本気にさせるため、早速、レンタルビデオ屋さんでビデオと一緒に借りてきたCDをスイッチオン! 曲は、もちろん、チャイコフスキー作曲『白鳥の湖』です。 「曲も綺麗〜」× 15 「うんうん。そうだろうとも!」 あと一歩! あと一押し! そう思った氷の国の氷河は、『白鳥の湖』に乗せて、駄目押しの歌を歌い出しました。 「 ば〜つばつは全然、恐くないんだよ〜♪ ば〜つばつは 楽し〜くて、 気持ちよ〜くて、 素晴らし〜くて、 癖になったら止まらない〜♪ 」 たれたれさん宅の居間に響く、氷の国の氷河の華麗なる(?)愛の(?)歌声。 これで、小人たちを大人にするためのお膳立ては完璧! のはずでした。 |