それから、長い月日が経ちました。
氷の国の氷河は、愛する小人たちを捜して世界中をさまよい続けました。
そして、氷の国の氷河の命は、今、燃え尽きようとしていたのです。


ちょっとストーリー展開が唐突すぎやしないかい? なんて思ってはいけませんよ。
運命の神様に愛されている小人たちを失った氷の国の氷河が、どんな苦労を重ねてきたのかなんて、いちいち説明されなくても、それは誰にでも想像できること。
そんなことを事細かに聞いていたら、涙と鼻水を拭くティッシュがいくらあっても足りません。
エコロジーのことを考えると、これはこれでいいのです。


そういうわけで、氷の国の氷河の命は、燃え尽きようとしていました。
それは、けれど、不思議なことでも唐突なことでもありません。
彼の命であり、彼の生きている理由であり、彼の愛のすべてである大切な可愛い小人たちが側にいてくれないというのに、氷の国の氷河がこれまで生き続けていられたことの方が奇跡なのですから。

でも、その奇跡も、そろそろ期限切れ。

氷の国の氷河は、見知らぬ国の、さわやかな風が吹く草原で、もう一歩も前に進むことができなくなり、ついにその場に倒れ伏してしまったのです。

長く孤独な放浪の日々のせいで、氷の国の氷河は疲れ果てていました。
氷の国の氷河の身体はぼろぼろでした。

氷の国の氷河は、自分の命が尽きかけていることを悟ると、最期の力をふりしぼって仰向けになり、今にも閉じてしまいそうな瞼を必死になって開けました。

氷の国の氷河の上には、真っ青な空が広がっていました。
その空を見て、こんな晴れたさわやかな日に死んでいけるのは幸せなことなのかもしれないと、氷の国の氷河は思ったのです。

愛する小人たちと離れ離れになってから、氷の国の氷河は、胸も潰れてしまいそうなほど孤独な日々を過ごしてきました。
けれど、氷の国の氷河は、ただの一瞬たりとも、小人たちの愛を疑ったことはありませんでした。
小人たちへの愛を見失ったこともありませんでした。
小人たちと自分を結ぶ揺るぎない愛の絆だけが、氷の国の氷河を生かし続けていたのです。

ビンボーで、気苦労の耐えない人生でした。
けれど、愛にだけは恵まれ、愛だけは豊かな人生でした。
ですから、氷の国の氷河は幸せだったのです。
小人たちと出会い、小人たちを愛し、小人たちに愛されていた自分の人生に悔いはありませんでした。

小人たちを見つけ出せなかったことは心残りでしたが、幸い、小人たちは一人ではありません。
小人たちは15人います。
ここで自分が誰に知られることもなく死んでいけば、小人たちは、その死を知らないまま、互いに助け合い励まし合って、きっと世界のどこかで幸せに生き続けてくれるはずでした。


さわやかに青い空の中に、愛する小人たちの顔を思い浮かべ、氷の国の氷河は、一粒涙を零しました。
そうして。
氷の国の氷河は、ゆっくりと瞼を閉じたのです。



「……駄目だよ、知らないものに不用意に近寄っちゃ。悪い宇宙人だったらどうするの……!」
「宇宙人だとしても、芋虫みたいにごろごろしてるだけだから、あんまり恐くないよ」
「そうだね。暴れても、すぐ逃げられるね」

さわやかな風に乗って、小人たちの声が聞こえてきたような気がしました。






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