子供は、直感で生きています。
大人が理屈や経験で判断するところを、子供は直感で判断するのです。

子供の直感。
それは、こと対人関係においては、大人の持ち出す理屈や経験なんて及びもつかないほどに的確で正確です。

その証拠に、お勤めに出た保育園で、氷の国の氷河はすぐにご指名ナンバー1の人気ホストに──もとい、人気保父さんになりました。

子供たちは、恐ろしいほどに鋭いその直感で、氷の国の氷河が、非常に善良でお人よしで、悪意というものに縁がなく、しかも甘くて御しやすいホストだということを、即座に見抜いたのでした。


ところで。
人気のないホストさんにも、それはもちろん悲しいものがあるでしょうが、人気のあるホストというのは、それ以上に辛く大変な仕事です。

ちゅうりっぷ保育園では、今日もたくさんの小さなお客さんが、氷の国の氷河を指名していました。


「ひょうがちぇんちぇー、ミルクちょうだーい」
「はい、ただいま」
「ひょうがちぇんちぇー、わたちはイチゴアイスとオレンジじゅーちゅが欲しいのー」
「少々お待ち下さい」
「ひょうがちぇんちぇー、チョコレートの盛り合わせが食べたーい」
「かしこまりました〜」


ちゅうりっぷ保育園のひよこ組のお部屋の薄いピンク色の壁には、折り紙で作ったお花が飾られています。
『そとからかえったら、てあらい・うがい』のポスターは、クマさんのイラストつき。
壁際には、子供たちが片付けないので氷の国の氷河が片付けた色とりどりの積み木が積まれ、その上には、子供たちの描いたお花畑の絵がずらりと貼られていました。

そんなほのぼのした職場で、氷の国の氷河は今日も汗みずくになって働いていました。
もちろん、一人ではありませんよ。
氷の国の氷河あるところに、小人たちあり。
氷の国の氷河の職場の制服である水色スモックのポケットの中で、小人たちは、氷の国の氷河の仕事振りをしっかりと見守っていました(『見張っている』とも言いますが)。

(……氷河はちゃんと働いてるようだね)
いちばん厳しいチェックを入れているのは、言わずと知れた9号です。

(ああ〜。僕もイチゴアイスやチョコレート食べたいなぁ)
(ガマンだよ、お仕事中なんだもの)
(そうだよ、勤務時間が終わったら、お手当てのお菓子が沢山食べられるんだから)
(それまでの辛抱だよ)
小人たちも、辛い役目に必死に耐えていました。


「皆さん、お待たせしました」
「アイスとジュース、わたちの〜」
「チョコレートはこっちー」
「あたち、ミルクー」
「はい、はい。アイスはこちらですね。ミルク、どうぞ〜」

氷の国の氷河の新しい仕事は、なかなか順調だったのです。
テーブルに、オーダーした飲み物やおやつが揃ったところで、子供たちが、氷の国の氷河に別のサービスを要求してくるまでは。


「ひょうがちぇんちぇー、面白いことしてー」
「お……面白いこと?」
「何か芸を見ちぇてー」
「げ……芸……?」
「見ちぇて、見ちぇてー !! 」

子供たちは、お客様です。
お客様は神様です。
こういう場合、氷の国の氷河に拒否権はありません。
お客様の言うことは絶対なのです。

問題は、氷の国の氷河が、海よりも深く山よりも高い愛情の他には、金も芸も持っていない男だということでした。






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