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氷の国は、世界のうんと北の方にあります。 『なのにちっとも寒い国のイメージがありませんね』と鋭い指摘を受けつつ、氷の国は毎日春のような気候です。 そんな氷の国の氷瞬城の前に、今日も、ペルセウス特急便のおにーさんが大型トラックで乗りつけてきました。 荷台は、小人たちへのケーキやプレゼントでいっぱいです。 「やあ、可愛らしい坊やちゃんたち、今日も可愛いねー」 トラックの運転席から降り立ったペルセウス特急便のおにーさんは、おにーさんの足許に走ってやってきた小人たちの前にしゃがみ込んで、いかにも二枚目風な笑顔を作りました。 「ペルセウス特急便のおにーさーん!」 「おにーさん、今日もお疲れさまー!」 「なーに、坊やちゃんたちの可愛い顔を見れると思うと、石の国のペルセウス運輸営業所から氷の国まで、1日に何往復もすることぐらい、大したことじゃないさ」 「ペルセウス特急便のおにーさん、毎日ありがとー!」× 15 ないすがいなおにーさんと、荷台いっぱいのケーキを迎えて、今日も小人たちはうきうきです。 「氷の国にもペルセウス運輸の営業所があればいいんだけどねー」 「うん、石の国は遠いよね」 「お隣りの国だけどね」 「ペルセウス特急便のおにーさん、今日も何往復もするの〜?」 「いや、今日は、あと1回だけだよ。3ヶ月前は、1日に6往復もして、大変だったけどね」 「テレビ放映から3ヶ月経ったしね」 「今くらいがちょうどいいよね」 「1日にトラック6台分の時は、僕たちもケーキ食べきるのが大変だったもん」 小さな溜め息をついてそう告げた10号の言葉に驚いたように、ペルセウス特急便のおにーさんは瞳を見開きました。 「あのケーキを、全部食べたのかい?」 「もちろんだよ、食べ物は食べるためにあるんだもん」 「それにしちゃ、太らないね、坊やちゃんたちは」 「毎日、氷河の応援ダンスしてるもん」 「ああ、死ぬほどカッコいいって噂の、坊やちゃんたちの氷河だね」 ここのところ毎日氷の国に通っていたのですが、ペルセウス特急便のおにーさんは、まだ一度も氷の国の氷河に会ったことがありませんでした。 この3ヶ月間、氷の国の氷河は、気力と体力と神経を使いまくる大仕事のために、お城の奥の仕事場にこもりきりだったのです。 氷の国の氷河を褒められて(褒められた気になって)、小人たちはとても機嫌を良くしました。 「そーだよ」 「僕たちの氷河は、すっごくカッコよくて!」 「とっても優しくて!」 「僕たちのためなら、どんなことでもしてくれるんだ!」 「へぇ、そうなのか。でも、可愛い坊やちゃんたちのためなら、俺だってどんなことでもしてあげるよ」 「わーい、ありがとうー!」 「じゃあ、今日はもう1回、氷の国までケーキ運んできてちょうだいねー!」× 15 「…………」 自分の流し目に自信を持っていたペルセウス特急便のおにーさんは、小人たちのシビアな反応に、ちょっとだけがっかりしてしまいました。 でも、氷の国の小人たちは、どんなないすがいの、どんな甘い言葉にも、そう簡単に酔ったりはしないのです。 小人たちを酔わせるものは、甘い甘いお菓子と、そして、自分の責務を全うすべく一生懸命に努力する労働者の美しい労働の姿だけなのでした。 |