石の国の物語

 それぞれの旅 






氷の国の氷河が悲壮な決意を胸に氷の国を出発した頃、合体瞬と勇者アルゴルは石の国へと続くハイウェイをかっ飛ばしていました。


「氷河、今頃どうしてるんだろう……」

派手派手トラックの助手席に座らされた合体瞬は、氷の国の氷瞬城の中庭に芋虫状態で残してきた氷の国の氷河のことを思って、ひどく不安顔です。

これが小人たちなら、もう少し賑やかな反応を示していたことでしょうが、小人たちは合体すると、ちょっとのんびりおっとりモードになるのでした。

「なんとかしてるさ。何とかできていなかったら、それは、奴が、瞬が気にかけてやるほどの男じゃなかったというだけのことだ」
「でも、やっぱり心配……」
「ちょっと後ろの席を見てみな」

アルゴルにそう言われた合体瞬がトラックの後部座席を見てみると、そこにはたくさんのおやつが積まれていました。

「わ、お菓子がいっぱいある!」
「腹が減ってないか?」
「そういえば……」
「腹が減るといらぬ事まで気にかかってしまうものさ。それでも食って、気を落ち着けてみろ」
「……うん」

口調は少々荒っぽいですが、しかも、完全完璧に彼は誘拐犯なのですが、アルゴルは、合体瞬に対して、いたって紳士的でした。
きっと、アルゴルは、ようやく見付けた理想の相手に、無理強いなんかはしたくなかったのでしょう。

本質的に、彼はそんなに悪い人間ではないようでした。
ちょっと自信過剰のきらいはあるようでしたけれどね。

アルゴルのそういうところを、合体瞬は敏感に感じとっていました。
ですから、合体瞬は、自分の身に危険が降りかかる可能性なんかは考えず、さしたる抵抗もしないで、トラックの助手席でおとなしくしていたのです。
全速力で走るトラックから飛び下りて怪我でもしてしまったら、それこそ氷の国の氷河を悲しませるだけだということを、合体瞬はちゃんとわかっていました。


「もぐもぐ。僕、おうちに帰りたい。氷河、きっと心配してる」
「瞬は石の国に行ったことはあるか?」
「ううん、ないよ」
「石の国はなかなか綺麗なところだぞ。水晶の森や瑪瑙の散歩道、サファイアの時計台、観光名所もいっぱいだ。行ったことがないなら、1度観光がてら行ってみるのもいいんじゃないか?」

「──氷河が喜びそうなお土産あるかな」
「実際に見て探してみればいいさ。そのうちあいつが迎えに来るだろうから、それまで石の国を見てまわってればいい」
「うん、そうだね。きっと氷河が迎えに来てくれるよね」

合体して、のんびりおっとりモードの合体瞬には、まるで危機感がありません。
小人たちのコマネズミのような機敏な動作も、お絵描きソフトと高機能OS搭載の最新型パソコンのCPUのように俊敏な思考回路も言語能力も、9号のお利口ささえ、合体瞬からは失われているようでした。






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