サファイアの時計台の1日1回限定のからくり仕掛け。 それを見たカップルは幸せになるという噂の時計台。 もちろん、氷の国の住人である氷の国の氷河は、石の国のそんな噂など知りません。 けれど、氷の国の氷河にはわかっていました。 何か不思議な力が、氷の国の氷河にその危険を知らせてきたのです。 アルゴルと合体瞬に、そのからくり仕掛けを見せてはいけないのだと、不思議な力が、氷の国の氷河の心に囁きかけていたのでした。 それは恋する者の直感だったのかもしれません。 あるいは、第六感を超えたセブンセンシズだったのかもしれません。 (8割5分の確率で、流しのセールスマンの商売の勘ということも考えられましたが) いずれにしても、氷の国の氷河は、迫りくる危険の予感に、ひどく焦っていました。 焦りながら、必死に走りました。 からくり仕掛け発動の時刻まで、あと少し。 氷の国の氷河は必死になって走り続けました。 そんな氷の国の氷河に置いてきぼりを食ってしまったミロが、氷の国の氷河を大きな声で呼び止めます。 「おい、氷の国の氷河! サファイアの時計台のある場所は、そっちとは逆方向だぞ!」 「えええええっ !? 」 慌てるな、氷河は急に止まれない。 ミロの言葉を聞いて慌てて自分に急ブレーキをかけ、そのついでに、どでででで〜っ★ とスッ転んでしまった氷の国の氷河を見て、ミロは本当に本当に呆れてしまいました。 彼は、ここまでお約束に忠実な男というのを、これまで見たことがなかったのです。 こんな阿呆な男に付き合っていたら、ミロ自身もサファイアの時計台に辿り着くことができないかもしれません。 ミロは氷の国の氷河がスタート地点に戻ってくるのも待たずに、さっさとサファイアの時計台に向かって走り出しました。 氷の国の氷河はともかく、アルゴル邸の使用人さんやクレープ屋のおじさん、アイスクリーム屋のおじさん──。 誰もが口を揃えて可愛いと断言するほどの可愛子ちゃんは、少なくとも氷の国の氷河のようなマヌケ男には不釣合いです。 ミロは、そう決め付けていました。 それは決して間違った判断というわけではありません。 けれども、当人たちの意思を無視した独断ではありました。 |