「しまったっ!」
「ばかなっ! こんな可愛い瞬がこんなアホ男を庇うなんてっ!」

二人の勇者たちは、自分たちの光速拳が、勇者でも何でもない普通の超可愛子ちゃんに命中してしまったことに驚愕の嵐です。

「瞬―っっ !! 」
勇者たちの攻撃をまともに受けて倒れてしまった合体瞬をその腕で抱き起こし、必死に身体を揺さぶりながら、その名を叫ぶ氷の国の氷河。
しかし、合体瞬は目を開けてくれません。

「瞬!」
「可愛子ちゃん!」
慌てて合体瞬の側に駆け寄ろうとしたミロとアルゴルの耳に、ふいに、地獄の底から響いてくるような冷たい声が聞こえてきました。

「貴様等……」
「むっ、何だ、このすさまじいまでの殺気……いや、小宇宙は……!」

「俺の瞬を……」
「まさか、この刺繍男から……?」

「俺の瞬に……」
「そんな馬鹿な。この男のどこにこんな力が……!」

「俺の可愛い瞬に……」
「これはセブンセンシズ……いや、エイトセンシズか?」

そうです。
その冷たい声とすさまじいまでの威圧感は、合体瞬を右の腕に抱き、その場に仁王立ちになった氷の国の氷河から発せられていました。

「俺は、たとえ瞬がおまえらにナニかされていても許していただろう」
「エイトどころじゃない、ナイン、テン、イレブン……ハンドレッド、いや、それ以上……これはまさに、ミリオンセンシズ!」

「瞬が元気でいてくれさえすれば、俺はそれでよかったんだ」
「しかも、なんという、すさまじい凍気……これは、絶対零度どころじゃないぞ……!」

「しかし、瞬にこんな攻撃を仕掛けてくるとは、人間にあるまじき行為」
「そんな馬鹿な! 絶対零度以上の低温度など、人間に作れるはずが……いや、宇宙空間にすら存在し得ないもののはず……! この世に存在しないもののはずだっ!」

「氷の森のクマやキツネたちですら、優しく暖かい心を持っていたというのに」
「この男は神か !? 」


「貴様等、人間じゃねぇ」
「だだだだだから、それは、ただの間違いで〜」×2

二人の勇者の弁明が、今の氷の国の氷河に通じるはずがありません。
氷の国の氷河は、彼の心を、命を――いいえ、彼の心や命よりも大切なものを傷付けられてしまったのですから。

今の氷の国の氷河は、真にクールでした。
今の氷の国の氷河の心には、邪悪と罪に染まった者たちへの同情心など入り込む余地はありません。
彼は、今こそ冷酷非情そのものになって、罪深い者たちへの攻撃態勢に入ったのです。

「食らえ、氷の国の氷河、最大にして最高にして最強の拳! オーロラ・カウントレス・フォーエバー・フローズン・刺繍ニードルーっっ !!!! 」

多分、それがどんな技なのか、氷の国の氷河は、自分でもわかっていなかったことでしょうが、そんなことは、この際、問題ではありません。
氷の国の氷河は、二人の勇者どころか、石の国まで――いいえ、この世界全体をすら崩壊に導くだろうほどの必殺技を繰り出そうとしていたのです。






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