小人たちの『お姉さん、ありがとう』ダンスが終わると、お姉さんは小人たちの小さな本を大事そうに手に取って、
「本のお代はいくらなの? 小人さんたち」
と尋ねてきました。

「あ、はい。10円になります!」
感動の涙に浸りつつも、しっかり者の9号は、商売の方もちゃんとこなします。

小人たちの本は、小さな紙片に描かれた原稿を何十ページ分も並べてB4・1枚でコピーして、それをカットして作ったコピー誌でした。
そのコピーをしてくれたのは氷の国の氷河です。

本当は、さすがの商売上手の9号も、初めてのお客さんにはタダで本をプレゼントしてもいいと思っていたのですが、『愛する氷河の労力をタダ売りはできない』というのが、彼の商売人としてのポリシーでした。

「あ、10円玉がないわ。えーと、100円玉でも平気?」
お姉さんが心配そうに言うのに、商売人9号は余裕の微笑みです。
「はい、お預かりします。90円のおつりですね」

9号がそう言って仲間たちに合図をすると、1号〜5号が、かねて用意の釣り銭入れから、10円玉
を4個と50円1個をごろごろ転がしてお姉さんの前に登場。
あとの9人が声をそろえて、
「お買い上げ、ありがとうございましたー !! 」
のご挨拶。


もう、何をしても、その一挙手一投足が凶悪に可愛いすぎる小人たちに、お姉さんは大感激です。

いいえ、お姉さんだけではありません。
小人さんサークルのスペース前に集まっていた、ゆうに500人を超える観客が嵐のような拍手と喝采を小人さんたちに投げかけてくれたのです。


小人たちの本が残り少ないと知った観客たちは先を争うようにして――ほとんど喧嘩腰で――小人たちの本を買っていってくれました。


小人たちはそのたびに、『お買い上げ、ありがとうございました』のダンスを踊り、お釣り渡しのセレモニーを執り行い、そのたびに観客たちはやんややんやの大喝采。


小人たちの本はあっという間に完売しました。

氷の国の氷河がお昼近くになって一般入場してきた時には、売る本がなくなった小人たちは、瞬ちゃんズサークルのお店のお手伝いをしていました。

小人たちのダンスが大受けで、瞬ちゃんズサークルの本もお昼を待たずに完売。
午後はみんなでおべんとタイム。

氷の国の氷河が用意してきた小さな小さなおにぎりを頬張る小人たちの姿を、たくさんの人たちがカメラに収めていきました。

たれたれ瞬ちゃんの持ってきてくれたおやつに突進する小人たちの様子を、これまたたくさんの人たちがビデオに収めていきました。



小人たちは、その日、コミケの大スターでした。

売った本はたったの12冊でしたが(15冊搬入して、3冊を瞬ちゃんズにあげたので)、小人さんサークルはその日その時から、大手サークルナンバー1としてコミケット準備会のデータファイルに記載されることになったのです。



1回のイベントに15冊しか本を出せない地球一の大手サークル。

小人さんサークルは、それ以後も数々の逸話をコミケの歴史に刻むことになるのですが、そのお話はまた別の機会に譲ることにいたしましょう。