チョコろんのCFは、最初の予定では、小人たちが鍵盤の上を走り回って、『チョコろんろん チョコろんろん めーじゃ チョコろん♪』の演奏をするはずでした。
ところが小人たちの体が小さくて、体重があんまり軽いものですから、ピアノの鍵盤がうまく弾んでくれません。
そこで、小人たちは、小さな小さなハンマーを持って、鍵盤を叩いて鳴らすことになりました。

CM作りのスタッフは、急遽、小人たち用のハンマーの準備におおわらわ。
まあ、結局は、氷の国の氷河が作ることになったんですけどね。
何といっても、小さな小人たちの小さなお洋服やおもちゃは氷の国の氷河にしか作れないのですから、当然のことです。


さて、ところで。
CF録りのスタジオには、『チョコろんろん チョコろんろん めーじゃ チョコろん♪』の曲を作った作曲家のおじさんも来ていました。

このおじさんは、若い頃にはピアニストになる夢を持っていました。
けれども、おじさんは、ものすごいあがり性。コンクールに出るたび緊張のしすぎで失敗を重ねたおじさんは、結局ピアニストになる夢を諦めたのです。
そして、この世界ではとても有名な作曲家になりました。

そのおじさんが、ハンマーができるまでの間、小人たちにピアノ演奏指導をしてくれることになったのです。

「楽譜の見方はわかるかな、小人さんたち。この5本の線の下にある短い線がドの音だよ。しっぽのついていないおたまじゃくしが一拍、しっぽが一つつくとその半分、白いおたまじゃくしは2拍だ。5本の真ん中の線から担当キーを分けた方がいいかな」
おじさんの説明はとてもわかりやすくて、まるでゲームのルールの説明のよう。
小人たちはすぐに、音階もおたまじゃくしの種類もスタッカートもクレッシェンドも覚えてしまいました。

そして、氷の国の氷河お手製のピアノハンマーができると、『チョコろんろん チョコろんろん めーじゃ チョコろん♪』を一発クリア。

作曲家のおじさんは大感心です。
「うまいね〜、小人さんたち。別の曲も演奏してもらいたいくらいだよ」

「えへへへへ。僕たち、ピアノ、うまい?」
「別のゲームのルール表もあるの?」
「僕たち、それもやってみたいね〜」
「うんうん、これ、面白いね!」

乗り気の小人さんたちに、作曲家のおじさんは笑いながら、別の楽譜をくれました。
おじさんは、その時、『ちょっこれいと ちょっこれいと ちょこれいとはめーじゃ♪』の楽譜を渡すつもりでした。
でも、おじさんは、うっかり、別の仕事で使っていたショパンの『小犬のワルツ』の楽譜を小人たちに渡してしまったのです。

ショパンの『小犬のワルツ』は、小犬が自分の尻尾にじゃれついて、くるくる回っている様子を曲にしたものと言われています。
短くて早いテンポの軽快な曲ですが、弾くのはとっても難しいんです。
明確にリズムをとって、粒の揃ったタッチで素早く弾き、のびやかな中間部を印象的に演奏するのは、本職のピアニストさんにだって、なかなか難しいこと。

それを、小人たちは、初見であっさりと、とても楽しそうに、見事に弾いて――もとい、叩いて――みせてくれたのです。

「わーい、この曲、面白〜いv」
「楽しい曲だね〜」
「ちょっと疲れちゃったけどね」
「うんうん、疲れたね」
「でも、可愛い曲だね」
「僕たちにぴったり〜v」
――なーんて言いながら、ピアノの鍵盤のあちこちに座って盛りあがっている小人たちを、作曲家のおじさんはしばらく呆然と見詰めていました。

「おじさん、僕たち、上手に弾けた?」
「もっと、面白いゲームもあるかしら」
「あるなら、ちょうだい〜!」

このゲームがすっかり気に入ってしまった小人たちの声で、おじさんははっと我に返りました。
そして、叫びました。

「て……天才だ! 君たちは天才だよ! フンメルにもクラーマーにもカルクブレンナーにも、こんな素晴らしい演奏はできなかったに違いない! 君たちは、100年――いや、1000年に1人――いや、15人出るか出ないかの天才ピアニストだーっっ !!!! 」

感極まったおじさんの雄叫びに、スタジオにいたCF作成スタッフ全員が小人たちを振り返ります。

「は……ははははは。人間の指は10本しかないけど、小人たちは15人いますからね」
氷の国の氷河の、ある意味まっとうな意見は、作曲家のおじさんの耳には聞こえていませんでした。
おじさんは、世紀の大ピアニスト誕生の場に居合わせた感激で胸がいっぱいだったのです。

自分には叶えられなかった、ピアニストになる夢。
その夢を叶えてくれるかもしれない逸材に、おじさんは巡り会ったのです!