「おーっほっほっほっほっほっほーっ !! 」 けたたましい笑い声と共に、その人は飛行機から降り立ちました。 氷の国は、氷瞬城と小人さん商店街の他に大した建物もありませんでしたので、着地する場所に不自由はなかったのです。 慌ててお出迎えのために、タラップの下に整列した小人たちを、atenasaori_ojyoはぐるりと見回しました。 そして、 「あなたたちが、有名な小人さんたちなのね。ほんとに小さいのね。小さいから小人なのね」 と、なんだかとても当たり前のことを言いました。 「おお、さすがはお嬢様。見事なご高察!」 どうやらatenasaori_ojyoの太鼓持ちらしいタコのような男が、彼女の後ろに従っています。 「ほほほほほほ。そんなわかりきったことは、今更言わなくてもいいわ」 「おお、さすがはお嬢様。何と謙虚な態度!」 「そんなわかりきったことは、今更言わなくてもいいというのに」 「おお、さすがはお嬢様。本当に何と謙虚なお言葉!」 「…………」 atenasaori_ojyoは、さすがに、タコの芸の無さにムッとした顔になりました。 小人たちは小人たちで、パーティでもないのにびらびらのドレスを翻しているatenasaori_ojyoと、異様な頭をしたタコの登場にびっくりです。 「ねえ、この人、まりー・あんとわねっと?」 「へえ、13号。マリー・アントワネットなんか知ってるんだ。すごいじゃない」 「こないだ、9号が読んでた歴史書(←豪華版『ベルサイユのばら』)をちょっと覗いたの」 「勉強熱心なのはいいことだよ。でも、この人はマリー・アントワネットじゃない」 「え? だって、長いドレスを着てるし、頭に羽がついてるし……」 「オスカルがいないね」 「あ、そっかー。オスカルの髪は僕たちの氷河みたいにきらきらしてたけど、あのお付きの人の頭はテカテカしてるもんね」 「そういうことだね」 9号には、突然現れた落札者がびらびらでもタコでも、ちっとも構いませんでした。 ですから、9号は、お金持ちのatenasaori_ojyoに向かって、とびっきりの笑顔を向けたのです。 「ようこそ、氷の国へ、大金持ちのお嬢様! では早速、僕たちの歓迎のダンスをご覧下さい!」 ところが、atenasaori_ojyoの反応は、 「結構よ。私はブツを貰いに来たの。ブツをちょうだい」 ――という、それはそれは素っ気ないものでした。 「え……」 その思いがけない反応には、さすがの9号もびっくりです。 「なぁに、この人。僕たちのダンスを見たくないんだって」 「変な人だね」 「しっ。変な人だって大金持ちなんだから!」 9号は、atenasaori_ojyoの普通でない反応を、お金のために我慢しました。 「あ、じゃあ、お城の中で、おやつを召し上がってください。僕たちがママレンジで焼いたパンケーキがあるんです」 「ほほほほほほ! 毎日フグをたらふく食べているこの私が、ママレンジで焼いたパンケーキごときで満足するとでも思っているの? バカな子たちね。さあ、そんなものよりブツをおよこし」 「……ねえ、この人、やっぱり変だよ。おやつが食べたくないんだって」 「普通じゃないよねぇ」 「もしかすると宇宙人かも」 「お供のタコは火星人なんだよ、きっと」 「しっ。宇宙人だって、大金持ちなんだから!」 9号は、鍵盤にお金を払ってくれさえするなら、atenasaori_ojyoが宇宙人でも全然構いませんでした。 「じゃあ、お茶だけでも」 「ほほほほほほ! 毎日、特別なエサを食べた乳牛の出す低温殺菌高級牛乳を飲んでいる私の舌を満足させられるようなお茶が、こんな田舎の国にあるとでも思っているの? そんなことより、さっさとブツを渡すのよ、バカな小人たち!」 「ねえ、9号……。僕、この人、恐い」 「嫌だよ、こんな人に僕たちの鍵盤あげるの」 「あの鍵盤は、僕たちが大切に叩いてきた鍵盤なのに」 「一生懸命、難しい星座の名前書いたのに」 「うん……でも、この人、大金持ちなんだから……」 それでも、9号はなんとか我慢をしたのです。 「じゃあ、鍵盤のあるところにご案内いたします。こちらへどうぞ」 この様子では、歓迎セレモニーは全部省略して用件に入った方がよさそうだと判断した9号は、そう言って、小人たちの脇にぬぼ〜っと立っていた氷の国の氷河の肩によじ登りました。 9号に続いて、他の小人たちもわらわらわらと、氷の国の氷河にへばりつきます。 atenasaori_ojyoは、その時になって初めて、そこに氷の国の氷河がいることに気付いたようでした。 atenasaori_ojyoは、じろじろと不躾な視線を氷の国の氷河に向かって投げつけました。 「ふふん。これが氷の国の氷河? まあ、噂通りしょぼい男ね。小人たちに寄生して生きている寄生虫のような男だという話だったけど、ふふふん、ほんと、その通りだわ」 「…………」 氷の国の氷河は、atenasaori_ojyoの暴言にも無反応です。 実は、氷の国の氷河は、さっきからずっとatenasaori_ojyoの奇天烈な羽つきドレスにびっくりしていて、atenasaori_ojyoの声なんか聞こえていなかったのです。 「ねえ、寄生虫ってなぁに?」 小人たちは、それが褒め言葉ではないことは何となく感じとれたのですが、寄生虫の意味を知らなかったので、どう怒ればいいのかが今ひとつわかっていませんでした。 「あんまりいい言葉じゃなさそう……」 「そうだね……」 「ねえ、9号。大金持ちには、やっぱり逆らっちゃいけないの?」 困ってしまった小人たちは9号にお伺いを立てたのですが、その9号は燃えるような目をして、atenasaori_ojyoを睨みつけていました。 9号には、atenasaori_ojyoの言う『寄生虫』の意味がわかっていたのです。 |