その親切で不審な人は、小人たちのために、必死になって栗の実を落とし、汗みずくになりながらイガイガを取り除いてくれました。

小人たちは、最初のうちは、親切で不審な人の働きぶりに感心しながら、その様子を遠巻きに眺めていたのですが……。


「ねぇ……。匂わない?(ひそひそ)」
「うん……。僕もそう思ってた……(こそこそ)」

その親切で不審な人は、朝からずっと半日以上、銀杏の木の下で、かぐわしいぎんなんの香りに包まれていましたから──かぐわしいぎんなんの匂いが全身に染みついてしまっていたのです。

「お〜い、たくさんとれたぞー!」

「わ〜い!」
(うっ……)

「どうもありがと〜!」
(……くさいよ〜)


小人たちが、親切で不審な人のかぐわしい香りに悶絶していた時、ちょうど、そこにお菓子作りの好きなたれたれ瞬ちゃんが通りかかりました。
小人たちは、いつもの倍の素早さで、たれたれ瞬ちゃんのところに駆けていったのです。

「たれたれ瞬ちゃん〜!」
「見て見て! 栗の実がいっぱいあるの」
「おいしそうでしょ!」

小人たちが、カゴの中に山と積まれた栗の実を指さすと、たれたれ瞬ちゃんは、とても嬉しそうな笑顔を見せてくれました。

「わ〜、すごいね! 作り甲斐があるなぁ♪」
「あのね、あのね。僕、マロングラッセが食べたいの」
「うんいいよ。作ってあげる」
「僕はね、パイがいいな」
「好きなもの、なんでも作ってあげるよ」
「やった〜 !! 」× 15


小人たちの心は、もうすっかりお菓子の元へと飛んでいました。
何より、変な匂いのする親切で不審な人の側から、早く避難してしまいたかったのです。

そんなわけで、親切で不審な人の手の届かないとお〜〜くの方から、「ありがとうございました」を言うと、小人たちは急いで、たれたれ瞬ちゃんとその場を離れました。

親切で不審な人の正体を暴くなんてことは、小人たちは考えたりしません。
親切な人は、親切で優しい人。
他に何を知る必要もありませんからね。




小人たちがいなくなった、大きな大きな栗の木の下。
後に残されたのは、なんだか怪しい格好の親切で不審な人と、たくさんの栗の殻だけ。



綺麗な夕日がゆっくりと、金色の大地に沈んで行きました。