事前にお手紙で企画の内容を知らされていた小人たちは、ちょっと緊張して、おじさんたちに対峙しました。 紺色のスーツを着込んだおじさんたちは、見るからに偉そうです。 氷瞬城の応接間のテーブルの上にずらり勢揃いの小人たちも、おじさんたちを見上げて少し気後れ気味。 けれど、小人たちには、商売上手で『お利口』担当の9号がいました。 「肖像使用と企画案件の使用許可、ぱんつのデザイン料等一括で契約金は、3――」 『億円でいかがでしょう』と続けようとしたおじさんを、9号は毅然とした口調で遮りました。 「待ってください。その条件を提示するのは僕の方です!」 「は……はぁ……」 自分の中指にも足りない大きさの9号のきっぱりとした物言いに、おじさんはしょっぱなからたじたじです。 「信州巨峰プリッツ1年分と夕張メロンポッキー1年分、この条件は譲れません!」 「は?」 「それから、津軽りんごコロンも1年分つけてもらいます。全部で――」 9号はテーブルの上に準備していた電卓の数字キーの上を走り回って、ぴぴぴっ☆ と素早く計算をしました。 「税別で788万円ですね」 「788万円……」 9号の返答を聞いたおじさんは、頭の中で引き算です。 3億円 引く 788万円。 それは、ちゃんとした答えを出すまでもなく、予定の金額より2億9000万円以上お得なお買い物でした。 なにしろおじさんは、3億円を支払うつもりでいたのですから。 その金額も、おじさんは、事前に小人たちに伝えてあったのです。 小人たちは小さいから、3億円のお金よりお菓子の方が値段が高いと思っているのだろうか? と、おじさんは訝りました。 もしかしたら、小人たちは『億』と『万』の区別がついていないのかもしれない――とも思いました。 それは、ありえないことではありません。 小人さん商店街での通貨がボッキーやチョコレートだということは、おじさんたちも聞いていたのです。 おじさんが困惑していると、9号の後ろに控えていた4号が、 「ねえねえ、9号。信州蕎麦プリッツもつけてもらってよ」 と、9号に囁きました。 「えー? あれ、ちっとも甘くないじゃない」 「だって、僕、好きなんだもん」 「もう、仕方ないなぁ……」 9号は、おじさんの方に向き直って、 「信州蕎麦プリッツも1箱つけてください。合計が788万と200円。当然、税別です」 と、口調だけはやっぱりきっぱり。 「いや、しかし、それはあの……」 おじさんは、9号の提示してきた条件にとても困っていました。 「この企画は絶対当たります! だって、僕たちの愛する氷河の作ってくれるぱんつ企画なんだから! 僕たちの氷河の作るぱんつは最高です!」 「は、それは重々承知しております」 小人たちのぱんつが素晴らしいものだということは、おじさんもよく知っていました。 知っていたから、おじさんたちはここにやってきたのです。 小人たちのぱんつは、インターネットのオークションで、平均1万円くらいの高値で取り引きされていました。 刺繍付きぱんつになると、その値段はすぐに5万円くらいに跳ねあがります。 おじさんは、オークションで競り落とした1枚のぱんつをじかに見たこともありました。 お裁縫なんかに興味のないおじさんの目から見ても、それは見事な仕事でした。 普通の人間の爪の大きさのぱんつに、ちゃんとそれとわかるほどのチューリップの刺繍。 それは、どんな精密な機械でも、そこまでのものを作り出すことは不可能なくらい素晴らしいものだったのです。 おじさんは、ですから、あのぱんつが大量に手に入るのなら、3億円でも安いものだと思っていたのです。 それが788万円と、飛んで200円。 おじさんには、小人たちは自分たちのぱんつの価値がわかっていないのだとしか思えませんでした。 |