「9号! 9号ったら!」
「朝だよ、起きて!」

「う……うーん……」

氷の国の朝は平和です。
ここには、世界の危機なんて、例え話にしたって存在しません。

「もう……。いつもは、早起きは3文の得だって言って、誰より早く起き出すのに!」

「むにゃ……」
仲間たちに肩を揺すられて、9号は、短い眠りから、朝の光の中に連れ出されました。

「どうしたんだ、9号? 体調でも悪いのか?」
「僕は元気だよ」
「そうは言ってもな……」

いつもいちばんに跳ね起きる9号のお寝坊振りに、氷の国の氷河も心配そうです。
最近、9号はこういうことが多くなりました。

9号は、氷の国の主柱です。
氷の国と、仲間たちと、頼りない王様を守るために、9号がいつも頑張っていることを、氷の国の氷河はよく知っていました。


「そうだよ。9号が元気なかったら、僕たちも元気が出ないよ!」
「一緒に元気じゃなきゃ、おやつ食べてもおいしくないし」
「ダンスも揃わないしね」

「みんな……」

小人たちが、口々に、仲間を気遣う言葉を9号に投げてきます。
ここでは、9号は、世界を股にかけて暗躍するエージェントではなく、世界を陰で支える超大物でもありません。
優しい仲間たちに心配してもらえる、“氷の国の小人たち”の一人でした。

「うん。じゃあ、今日の朝ご飯は、9号に元気を出してもらうために、トーストをやめてパンケーキにしような。生地にチョコレートを練り込んで、メープルシロップたっぷりのホイップクリーム添えだ。お昼寝の時間も、今日は少し長めにしよう」

「氷河……」

9号は、氷の国の氷河が、夕べも自分たちのぱんつを作って、遅くまで夜なべ仕事をしていたのを知っていました。
メリーケンケン国から帰ってきた時、氷の国の氷河の仕事部屋にはまだ灯りがついていたのです。


朝ご飯のテーブルでは、9号の身体を気遣った仲間たちが、少しずつ、9号にホイップクリームを分けてくれました。
何よりも甘いもの好きな仲間たちが、です。



氷の国の氷河と仲間たちの思い遣りに触れて、9号の瞳には、うっすらと涙がにじんできました。
(鬼の目に涙だ……。こんなの、僕には似合わないよ……)

そう思っても、9号の涙は、なかなか引っ込んでくれません。

「みんな、ありがとう! よーし、食べるぞー !! 」

可愛い小鬼は、その涙を誰にも見られないように小さな拳で拭うと、仲間たちと一緒にパンケーキにむしゃぶりついていったのでした。






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