「可愛いわねぇ」
「うん、可愛いなぁ」


しばらく、言葉も忘れて小人たちを眺めていたおシゲちゃんが、遊んでいる小人たちを見詰めたまま、ぽつりとクマさんに言いました。

「あたしに迷惑かけること気にして、『早く死にたい死にたい』って言ってたおとっつぁんがね、小人さんたちに励まされて、今日はずっと楽しそうにしてたのよね。小人さんの一人にね、『ほんとに迷惑かけたと思ってるのなら、早く元気になって、おシゲちゃんに綺麗な着物でも買ってあげなきゃ駄目だよ』なんて言われてね」

「ああ、そういや、一匹、口の達者そうな子がいたなぁ」
「9号ちゃんっていうんだって」

「ああして遊んでるのを見ると、誰が誰だか区別がつかねーけどな」
「ほんとほんと」

おシゲちゃんもクマさんも、実はそんなふうに屈託なく笑うのは久し振りでした。

毎日辛そうにこぼしてばかりいる病気のおとっつぁん。
働きたいのに自由に動いてくれない脚。
そして、明日のご飯を食べられるかどうかもわからないほどの貧しさ。

決して人生に悲観しているわけではありませんでしたが、この長屋の住人たちはみんな、何かしら重荷を抱えて毎日を暮らしていたのです。


「ふぉっふぉっふぉっ、可愛いのぉ」
「あら、ご隠居さん、神経痛の方はいいんですか?」
「可愛い声が聞こえてきたんでの」
いつもは家の中に閉じこもってばかりのご隠居さんが小人さん見物に現れたのに、おシゲちゃんはちょっとびっくり。


「あーあ、今日もウチのぐーたら亭主はぐーたらしてるばっかりで。小人さんたちの中に、お説教のうまい子がいるんだって? 明日あたり、ウチに来てもらおうかねぇ」
「ああ、そりゃいい考えだな」
毎日愚痴ばかり言っている八っつぁんのおかみさんの、いつになく前向きな言葉に、クマさんも驚きです。



「いやー、それにしても可愛いねぇ」
「元気でいいよねぇ。ウチの子が、小人さんたちと遊びたいって言ってたけど、仲間に入れてくれるかねぇ」
「踏み潰さないように気をつけてりゃ、大丈夫だろ」


そんなに大きな長屋ではありませんが、小人たちは、あっと言う間に長屋のアイドルになってしまったようでした。

小人たちは、江戸の片隅のおんぼろ長屋に、春を運んできてくれたのです。




花のお江戸のおんぼろ長屋に突如現れた15人の小人たちと、岡っ引きらしい内職男。 

梅の節句も終わり、桜の蕾もふくらんで、貧しいおんぼろ長屋にも、まもなく本当の春がやってこようとしていました。







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