「あ〜〜〜ん !!!! 」

どうやら、小人たちは、氷河のせんべい布団の上に、小人用のお布団(と言っても薄い手拭いのようなものです)をかけて、15人並んで眠っていたようでした。

おそらくは、そのいちばん外側に眠っていた小人さんが、頭から水をかぶったような有り様で、わんわん泣いているのです。


「ああ、雨漏りの直撃を受けちまったんだなぁ……」
クマさんがそう呟いた時、またひとしずくの雨粒が、大泣きに泣いている小人さんの頭の上にぴちょん。


「あ〜〜〜〜ん !!!! 」

小人さんの泣き声は、一層大きくなってしまいました。

小さな小さな雨のしずくも、小さな小さな小人さんには、タライの水をそのままかぶったのと変わらないくらいに大量の水だったのです。

「氷河に縫ってもらったお寝間がーっっ !! 」

やっと、小人さんを襲った災難の理由がわかったのか、氷河が慌てて、泣いている小人さんを雨漏り直撃スポットから移動させます。

「ああ、もう泣くんじゃない。風邪をひくから、それは脱いでしまいなさい」
「やだやだ、僕のお寝間だもん〜っっ!」
「いつまでも濡れたものを着ていると身体が冷えるだろう。いいから、脱いで、ここにお入り」

氷河がそう言って、人差し指で自分の懐を指差すのを見ると、びしょ濡れになっていた小人さんは急に笑顔になって、絣模様のお寝間をぱっと脱ぎ、ぴょんぴょん飛び跳ねるようにして、氷河の懐に飛び込んでいきました。

それから、襟と襟の間から顔を出して、
「うふふふふ。あったかーいv」
と、仲間たちに向かってにっこり。

「あ、10号ばっかり、ずるーい!」
「氷河、氷河! 僕のお寝間もちょっと濡れちゃったのー!」
「僕だって、寒いもーん」

何やら対抗意識を持ってしまったらしい他の小人たちが、我も我もと氷河によじ登りかけたのですが、一つの鋭い声がそれを押しとどめました。

「焼きもちやいてる場合じゃないよ、みんな!」
もちろん、それは、いつも冷静な9号の声でした。


「氷河、ぼーっとしてないで、お仕立て物を雨から守って! せっかく夕べ遅くまでかけて縫いあげた着物がだいなしになっちゃう!」

「あ、そうだな」
そう言って、部屋の隅に畳んでおいた仕立て物を手にとった氷河は、けれど、それをどこに置けばいいのかがわからず、おろおろしています。
貧乏長屋の氷河の家には、タンスなんて上等なものはありませんでしたから。

「長持ちの中から、僕たちの玩具を出して、そこに入れてフタをして! 僕たちの玩具は、傘を立てかけておけば、少しくらい濡れたって平気だから!」
「あ、ああ、そうか」

「あと、そこの角のところも何ヶ所か雨漏りしてるね。風呂敷を柱にゆるく結んでガードして! 風呂敷で雨を集めちゃえば、雨の雫が垂れるとこは一ヶ所にまとめられるから、そこに桶を置けばいいよ」
「わ…わかった」


てきぱきと氷河に指示を出す9号に、おシゲちゃんとクマさんは感心しきり。

「9号ちゃんって、ほんとしっかり者ねぇ」
「まったくだな。それに比べて……」

自分の人差し指にも満たない小人の指示にへこへこ従うばかりの氷河の方は、あまり――というか、全然――カッコよくありませんでした。


ともかく、9号のみごとな采配で、氷河の家の数ヶ所に桶や茶碗が並べられ、雨漏りの応急処置は無事に終わったのです。







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