それでも、小人たちは午後の仕事を健気にこなし続けました。
一応、お昼ご飯に、ご飯粒を幾つかは食べたのですが、それだけでは、どうにもおなかに力が入りません。

でも、お客さん相手に辛そうな顔は見せられませんから、みんな必死の0円スマイル。


けれど――無理はやっぱり長続きしないものです。


「よう、小人さんたち。今日も来たぜっ! みたらしとゴマ団子を1串ずつもらおうか」

お昼から小半時が過ぎて、常連の瓦版屋のマサやんが威勢良くお店に飛び込んで来た時、
「はひ〜、いらっしゃいまへ〜。たらしとこまし、1串ずつれ〜」
なんて訳のわからないことを言って、ついに、ばったん★ と6号が倒れてしまったのです。

「ろっ……6号〜っっ !! 」
「6号、大丈夫かっ !? 」

仲間たちと岡っ引き氷河が駆け寄ると、6号は小さな手を宙に差し延べ、
「お……お団子……」
と、一言呟いて、がっくりと気を失ってしまいました。

これには、マサやんも、他のお客さんもびっくり仰天。

小人たちは、気を失ってしまった6号を、涙ながらに抱き起こしました。
「6号……そんなにお団子が食べたかったんだね……」
「ぼ……僕だって、ほんとは……」

「う……うわぁ〜ん !! 」× 13
ついに我慢の限界を超え、お客さんのいるところで泣き出してしまった小人たち。
さすがの9号も、そんな仲間たちを叱責することもできず、倒れた6号の横で唇を噛んで俯いています。


「おい、亭主! てめぇ、小人さんたちに食うものも食わせねぇで酷使してるんじゃねーだろーな!」
「とっ……とんでもないっ!」
小人たちの阿鼻叫喚の様を見て、マサやんは、どうやら悪い誤解をしてしまったらしく、突然おじさんを罵倒し始めました。
おじさんはぶるぶる横に首を振り、9号が慌てて仲裁に入ります。

「ち…違うんだよ! おじさんは、いつだって優しくしてくれてるよ! ただ、今日は、僕たちのおやつ用のお団子が誰かに盗まれて……」
「だ……団子泥棒が出たのかい? でも、団子ならいくらでも……。親父、ケチらずに、小人さんたちに別の団子をやったらいいじゃねーか」

「駄目だよっ。その日作るお団子の数は決まってるんだから! 天気やお寺さんのイベントのこと考えて、足りなくならないよう、売れ残らないよう、毎日ちょうどいい数だけ作ってるんだ。もし、僕たちが1串余分に貰ったせいで、閉店間際のお客さんに、お団子を売ってあげられなかったら、お客さんに申し訳ないよ。もしかしたら、そのお客さんは、仕事帰りのお団子をとっても楽しみにしてくれてるお客さんだったりするかもしれない。そんなお客さんに、『もう売り切れました』なんて言って、がっかりさせることの方が、僕たちは、ずっとずっと辛いんだよっ!」

「9号ちゃん、おめぇ、そんなに、おいらたち客のことを……」
「当たり前じゃない! お客さんあっての僕たちなんだからっ!」

そう言いながら、必死に涙をこらえる9号や、9号の言葉に頷く小人たちに、お店にいたお客さんたちは全員貰い泣きです


「ゆ……許せねぇ……! 許せねぇぜ、その団子泥棒!」
ぐいっと涙を拭ったマサやんの瞳は、怒りに燃えていました。


「僕……僕たち、おやつに貰えるお団子を、毎日楽しみにしてたのに……。おやつのお団子を心の支えに、どんな辛いことにも耐えてきたのに〜っっ !! 」
ほんとは小人たちは毎日のお仕事が楽しくて、別に辛いことなんかなかったのですが、それは言葉の綾と言うものです。

「11号……だ……駄目だよ、お客さんの前で涙を見せたりしちゃ……駄目……う……」
9号だって、本当は泣きたいんです。
11号をたしなめながら、けれど、9号の瞳からはぽろぽろと涙が零れ落ちていました。

そして、ついに――。
「あーん、あーん、あーん!」

9号が泣き出したら、もう誰も小人たちの涙を止めることはできません。
「あーん、あーん、あーん !! 」× 14(←6号がまだ気を失っているため)

小人たちは大声をあげて堰を切ったように泣き出してしまったのです。


「こ…小人さんたち……」

この団子屋に集うお客さんたちはみんな、小人たちとおじさんのお団子の大ファンばかり。
いつも明るく元気な小人たちの涙を見せられて、平常心を保っていられるお客は1人もいませんでした。

「つ……捕まえようっ! その悪党を何としてもっ!」
マサやんが叫びます。

「江戸の町に指名手配だ! 極悪非道の団子泥棒を捕まえて、市中引き回しの上、磔獄門!」
トメさんも気勢を上げます。

「小人さんたちをこんなに悲しませるなんて、あたしゃ、その団子泥棒、蹴飛ばしてツバ引っかけてやりたいよ!」
おばちゃんだって、もちろん右にならえです。

「ほんとだよ、こりゃあ鬼畜生の仕業だよ。マサやん、早速、瓦版を作ってバラまいとくれ!」
「おうっ!」
「俺も仕事仲間に言っとくぜ」
「わしもゲートボール仲間に話しとこう」

「氷河さん。あんたも、お奉行様や十手仲間に、小人さんたちを泣かせた極悪人を捕まえるように言っとくれよ!」
「は? はい〜?」

小人たちの涙を止めようとして懸命作業中の岡っ引き氷河をよそに、その場はすっかり盛り上がりまくっていました。

「江戸の町のアイドルを泣かせたままにしとくなんざ、花のお江戸の名折れってもんだ! 必ず捕まえるぞ、その団子泥棒!」

「おおーっっ !! 」× 30(←概算値)



かくして、1本の串団子が原因で、江戸の町は上を下への大騒ぎとなったのです。







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