希望と食欲に満ち満ちた小人たちと、カミュ物理学者とミロ医学者を乗せた船は、無事に、ちゃんぽんと皿うどんとカラスミとかすていらの町・長崎に着きました。 小人たちは、もちろん、早速腹ごしらえです。 「おいしいねー! もぐもぐ」 「うん! すっごくおいしいね。このトンカツ、衣がさくさく、お肉もジューシーで最高だよ」 「スパゲティも、茹で具合がちょうどよくって、特製ソースもまろやか〜♪ ちゅるちゅる」 「ピラフもいけるよー! ぱくぱく」 小人たちが食べているのは、ちゃんぽんでも皿うどんでもカラスミでもかすていらでもありません。 もう一つの長崎名物です。 もぐもぐ、ちゅるちゅる、ぱくぱくと、長崎名物を平らげていく小人たちを眺めながら、二人の異人さんたちは、この不可思議な食べ物について、冷静に批評し合っていました。 「味付けの素晴らしさが、この無節操な組み合わせを救っているな」 「私は日本人のこういう貪欲さも、好きだがな」 「日本人は不思議な民族だな。国を閉ざしているかと思えば、一方で他国の文化を取り入れて、それを自分たち流にアレンジし、馴染んでいる」 「この国は、そういう国民性によって大きく発展する可能性を秘めているぞ」 「ああ。ところで、疑問があるのだが」 「私もそれを考えていた」 それは、日本人でも、ご当地の長崎人でも不思議に思う、長崎七不思議の一つです。 すなわち。 「なぜ、この長崎で、トルコライスなのだ?」 「そして、なぜ、これをトルコライスというのか?」 「議論のし甲斐がありそうだ」 そうなのです。 長崎の洋食屋さんで、カミュ物理学者とミロ医学者と小人たちが食べていたのは“トルコライス”という、時代考証無視の長崎の定番メニューだったのです。 1回の注文・1つのプレートで3つの味が楽しめて、食欲・価格共にお客様大満足のトルコライスは、実に9号好みのメニューでした。 「はぁ〜、おいしかった」 「満腹〜。幸せ〜」 「あとは、食後のデザートのかすていらと、3時のおやつの皿うどんと、お夜食にちゃんぽんとカラスミをいただく予定なんだよね」 「うん、楽しみだねー」 食費を気にせずに食べまくれるなんて、雨漏り長屋住まいの小人たちには滅多にあることではありません。 ですから、小人たちは今、死ぬほど幸せでした。 もっとも、カミュ物理学者とミロ医学者は、それほど幸せではないようでしたけれどね。 「……お前が買ったのは、金食い壺だったのか」 「しかし、見ていてなかなかに楽しめるではないか。退屈しないで済む」 「養うのは大変そうだが」 「本業を少し頑張ればいいだけのことだ」 「何がきっかけにせよ、真面目になるのはいいことだ」 「それでは私が今まで不真面目でいたみたいではないか」 「自覚症状がなかったのか。重症だな。やはり一度精密検査を受けた方がいい」 相変わらずちくちくと続いているカミュ物理学者とミロ医学者の陰険漫才を漏れ聞いた小人たちは、テーブルの上で頭を寄せ合って、食後のミーティング開始です。 「ねえ、あのおじさん、やっぱり身体の調子が良くないみたいだよ」 「歳のせいかな? 見かけは結構若作りなのにね」 「その点、氷河は丈夫でいいよね」 「たくわん一切れで、10日間生き延びる生命力」 「梅干ひとつで、3食乗り切れる想像力」 「たくましいよね〜」 「さすが、僕たちの氷河だよね〜!」 おいしいものを食べて、銭形氷河への愛を再確認して、小人たちは、今、おなかいっぱい幸せいっぱいでした。 |