「はふはふ。ぽりぽり」
「このぱきぱき感がたまらないよね〜」
「初めて出合ったお味だね〜」

「味はどうかな? 小人姫」
「は〜い、とーってもおいしいでーす」
「おねーさーん、あと5皿追加お願いしま〜す」× 15

こちらは、ところ変わって、長崎名物皿うどん屋さんです。
長崎の目抜き通りでカミュ物理学者とミロ医学者が正気を失っていた時、
『ああああ〜 長崎は〜今日も〜雨だった〜♪』
という歌の通りに、急に雨が降ってきたので、小人たち一行は雨宿りのために、ここに駆け込んだのでした。

「あああ〜。空の皿がどんどん積みあがっていくぞ」
「心配するな。必要経費として、全て王室に請求できる」
「そうなのか?」
「ただし、小人姫を王子の后として迎えられれば、の話だがな」
「そんなにうまいこと、この話が展開すると思うか? これは小人さんシリーズだ。小人たちの都合が悪いように話が進んだためしはないんだぞ」

「私たちが、これまでなかった前例の最初のひとつになればいいのだよ。なに、ゆっくりと、その気にさせていけばいい。そのうちに船は阿蘭陀に着いているさ」
ぷっつんした世を忍ぶ仮の姿の物理学者は涼しい顔で、なにやら不穏なことをさらりと言ってのけます。

それを目の当たりにした、こちらも世を忍ぶ仮の姿の医学者の頭の中では、何故か、
『異人さんに連れられて、いっちゃった〜♪』
という日本の童謡がエンドレスで流れていたのでした。

「もしゃもしゃもしゃ。ああ〜、こんなにおいしい物をいっぱい食べられて幸せ〜」
「毎日、皿うどんを食べられたらいいね」
「うん、ほんとだね」

「そうですか。では、毎日おいしい皿うどんが食べられるところへ行きたいと思いませんか?」
「うん、行きたいな〜」
お代を気にせず、食べたいものを食べたいだけ食べられる幸せに酔っている小人たちは、すっかり太っ腹です。

小人たちの返事を聞いたカミュ物理学者は、ひっそりと北叟笑みました。
「聞いたか? 十分、脈ありだと思わないか?」

「それはそれとして、私が今一番気になるのは、ここの払いも私が出すのかということなんだが」
「もちろん。2人でばらばらに立て替えると、精算する時に面倒なことになるからな」
「……論理的だな……極めて論理的だ」

『だが理不尽だ〜〜っっ!』という心の叫びを声にする力も、今のミロ医学者にはありませんでした。

「ごちそうさまでしたー」× 15
「はぁ〜、おなかいっぱい」
「僕、眠くなってきた」
「僕も〜」
「今日はまだお昼寝してなかったもんね……」

ミロ医学者が人生の理不尽に無情を感じている頃、理論も論理も超えた存在の小人たちは、そろそろおねむの時間です。

「では、宿に行って休むとしようか」
「ああ、それがいい、そうしよう」

さすがの小人たちも、眠っている間はものを食べることはできないはずです。
小人たちの飲食費の支払いを任されてしまったミロ医学者は、今は小人たちにはぜひぜひ眠っていてほしい気分でいたのでした。







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