銭形氷河が逆バサラ泳法で大阪湾を必死に南下していた頃。
すっかりおねむになった小人たちを抱えて、お宿に戻ろうとしていたカミュ物理学者とミロ医学者に、声をかけてきたおじさんがいました。
「ちょっと、ちょっと、そこのお兄さんたち」

「ん? 何か用か?」
「お兄さんたち、船でどこかへ行かれるのかね?」
「ああ、明後日の船で阿蘭陀へ帰るつもりだが」
「そいつはいい! 兄さんたち、ついてるよ! いや〜、実は、ほら、あそこの船、今日出航の阿蘭陀行きなんだけどね。乗船予定の新婚さんがいたんだけど、急に奥さんが産気づいちまってねぇ……。よくある、できちゃった結婚ってやつで、奥さん、おなかが大きかったんだわ。そんなわけで急遽キャンセルが出ちまって、ちょっと困ってたところなんですわ。特別サービス価格にしとくからこの乗船券、買わんかね?」

2人に声をかけてきたのは、今日のうちに長崎を出る船の船主さんでした。

「そうだな。六掛けなら買ってもいいぞ」
「ありゃ、お兄さん、しっかりしてるねぇ! え〜い、この際だ。それでいいやっ」

クールに値切るカミュ物理学者の返事を聞いた船主さんが、ぴしゃりと音を立てて、自分のおでこを叩きます。
それが、商談成立の合図でした。


なんということでしょう。
あっと驚く急展開で、何も知らずに眠っている小人たちを乗せた船は、さっさと長崎の港を出てしまったのです。

はたして、銭形氷河は、愛する小人たちに追いつくことができるのでしょうか?
そして、阿蘭陀国の王子様は、いったいどんな人物なのでしょう?



「……スィートか」
「新婚のとった船室だからな」

カミュ物理学者とミロ医学者の呟きを潮風に飛ばして、いよいよ舞台は、青い海の上へと移っていきます。







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