「僕は騎士じゃない。王女だと言って、ずっと国中の人を騙してきました。身分を偽って、ヒョウガも騙してる。ヒョウガと身体を重ねもしました。僕は穢れているはずなのに、騎士でもないのに、なのに、僕がこの危難の席に座るたび、あの聖遺物と天からの声は僕を誘うの」

騎士たちは、既に、何に驚けばいいのかもわからないでいるような状態でした。
時折思い出したように瞬きをする他に、言葉を発する者はおろか、表情を変える者すらいません。

「他の人が座っても同じことが起こるのかもしれません。あるいは本当に危難がその人を襲うのかもしれない。でも」

シュンの言葉には、以前は彼の内にあったのかもしれない不安は既になく、確信に満ちていました。

「でも、天が人に望んでいるのは、騎士という身分でも、穢れを知らない身体でも、ただの一度も人を欺いたことのない純粋な心でもないと思うの。騎士なんて大層な身分を持たなくても、肉の欲を知っていても、人を欺いたことがあっても、失われることのない何かだと思うんです」

いったい誰に、シュンの言葉に異議を唱えることができたでしょう。
天からの招きを受けた者、その招きを事も無げに退けた者の言葉に。



他の騎士たち同様、危難の席の主として天の御心に適った存在であるらしいシュンを驚愕の目で見詰めている兄に、シュンは言いました。
「兄君。アンドロメダをこの世から消してください。そして、“シュン”が、ヒョウガと共に、ヒョウガの国に行くことを許してください」

円卓の騎士の一人としてなら、それは、ログレスの王とて同じでした。危難の席に選ばれた者に意見を言うことなど、思い及ばないこと。
けれど、王にはシュンの兄として、シュンの身を案じる心があったのです。

「シュン、あんな騒乱の収まらない危険な国へ、大事なおまえをやるわけには……」
「お…王の言う通りだ。姫――アンドロメダ様をベンウィックなどに行かせてしまったら、予言の“王の中の王”は、我がログレスではなく、ベンウィックに現れることに――いや、その偽者の騎士が“王の中の王”になることになってしまう」
「ヒョウガは、ベンウィックとログレスを支配して、その王になろうなどとは考えてはいません」

王と円卓の騎士たちの不安を、シュンは一蹴しました。
騎士たちは沈黙せざるを得ませんでした。
何よりも名誉と礼節を尊ぶ騎士たちにとって、天に、危難の席に迎え入れられた者の言葉を疑うことなどできようはずもなかったのです。

「それとも――どなたか、この席に座る勇気のある方はいらっしゃいますか。その方の言葉になら、僕も素直に従いましょう。……騎士でなくても、高潔でなくても、危難は降りかかりませんよ。天が望む何かを持ってさえいればいいんです」

「…………」

その何かが、円卓の騎士たちにはわかりませんでした。
そうして、騎士たちは、再び沈黙したのです。




「ヒョウガ。僕個人には騎士の名誉も王の権力も予言の姫の肩書きもありません。ヒョウガと一緒にベンウィックに行っても何の力にもなれないかもしれない。でも……」
「おまえと対峙したら、誰にだってわかるだろう。おまえが天の意に適った存在なのだということは。きっと、誰もが俺のように一瞬でおまえに恋をして、争いなど馬鹿馬鹿しいと思うようになるさ。それに――」

それに、ヒョウガにはシュンが必要でした。
ヒョウガが言葉にしなかったその言葉を、彼の青い瞳から読み取って、シュンはほのかに微笑したのです。





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