翌日、氷河が出社すると、待ち兼ねていたかのように、下階にデスクのあるはずの総務部長が氷河の席に寄ってきた。 「例の新任常務が今日の午後来るそうなんですが、それがなんと大学を出たばかりの若造なんだそうですよ!」 「なに?」 「20歳を2、3過ぎたばかりの、しかも七光り入社。そんな子供に何ができるっていうんでしょうね」 「俺もまだ20代だ」 「霧谷部長は出来が違いますよ」 氷河より20も歳上の総務部長が、慌てて世辞めいたことを言う。 「ま、社会の荒波を知ってもらって、早々にお引き取り願うことにしましょう」 氷河の表情が不機嫌なそれに変わったのは、総務部長のそのわざとらしい言動のせいだったのだが、氷河の不機嫌の原因はそのことに気付かなかったらしい。新任の常務のせいで機嫌を悪くしたのだと誤解した様子で、彼はそそくさと自分のフロアに戻っていった。 氷河の不機嫌の原因は、確かに新任の常務のせいなどではなかった。 なかったのだが、常務の年齢に氷河が驚いたのは紛れもない事実である。 自分を役員にするには若すぎる――今回の役員人事は、そのことを婉曲に示すためのものなのだろうと、氷河は思っていた。当然、新任の常務は若くても50を過ぎた人物だろうと。 それが、まさか自分より歳下の者が来ようとは。 氷河は、今回の役員人事の意図が全くわからなくなってしまったのである。 |