「氷河、貴様、鬼か。少しも反省の色が見えないぞ」 訳のわかってない星矢を無視して、紫龍が話を引き受ける。 しかし、氷河の思い出し笑いは止まらなかった。 「俺は、瞬の望む通り、素直に自然に自分の欲するところを実行してみただけだぞ。久し振りだったもんで、つい色々試したくなってな。いや、実にいいものを見せてもらった。夕べの瞬は、凶悪なまでに可愛かったぞ」 品性下劣かつ嬉しそうに鼻の下を伸ばしている氷河に、そしてもちろん瞬にも、いったい最後はどう収拾をつけたのかと尋ねることは紫龍にはできなかった。 嘆息した紫龍を脇に押しやって、瞬が氷河に噛みついていく。 「いい !? 人間の欲はエスカレートするんだよ! 今年が未遂なら、来年は完遂で、再来年は倍の2回で、3年後は4回で、4年後には8回要求してやるからっ!」 常軌を逸しているとしか言いようのない瞬の言葉に、紫龍は再度嘆息した。 「瞬、その計算だと、10年後は512回だぞ。いくら聖闘士と言っても、氷河は確実に死ぬ」 当然、死ぬ時は瞬も一緒である。 それ以前に、その数は実現不可能な数字ではあったが。 「ぶ…分割払いでも必ず払わせるもんっ!」 昨夜、氷河のしたことは、瞬の処女心(オトメゴコロって読んでね)を相当傷つけたらしい。 「氷河、謝った方がいいぞ」 嫌な予感を覚えて、紫龍は氷河に忠告したのだが、氷河はどこ吹く風で、その忠告を聞き流した。 「払うさ、1年かけて分割払いだ。利子もつけてやる」 「…………」 それは、まあ、確かに瞬の望むことでもあるのだろう。 それ故、紫龍もそれ以上下手なことは言えなくなってしまったのだが――。 「記念日だからと言って、特別のことをしようとしたのが間違いだった。こーゆーことは日々の積み重ねが大事なんだ」 わかったふうな口をきく氷河に、瞬は――星矢も紫龍も――疑いの眼差しを向けた。 氷河の目が、反省の弁を口にしている男にしては、なにしろやたらと嬉しそうなのだ。 「俺が瞬を優しいと思っているのは、瞬が1年に1度だけ特別に優しいからじゃない。瞬は、毎日、いつも、どんな場面でも優しいからな」 だから――という前置きが、瞬たちの耳には確かに聞こえた。 「許してくれ」 「く……口がうまいんだからっ !! そんな氷河、信用できないっ !! 」 「××がうまかったら信用してくれるか」 氷河が、瞬の怒声に臆した様子もなく、余裕の笑みで戯れ言を口にする。 昨夜のほぼ半月振りのお楽しみが、よほど充実していたものらしく、浮かれきった氷河は完全に冷静な判断力を失っていた。 |