聖闘士になって、瞬と再会した時。

一輝が帰ってこないことに、俺は、胸の奥底で残酷な喜びに酔っていた。
このまま、一輝が帰ってこなければいい――そう願った。
失望し落胆している瞬の様子を見て、胸が痛むことすらなかった。

瞬を苛めることでしか瞬に近付く術を知らなかった子供の頃の自分を苦く笑える程度には大人になった今の自分なら、一輝の代わりに瞬を守ってやることもできる。

一輝のいない今なら。


だが、側にいなくても――むしろ、側にいないせいでなおさら―― 一輝の影は瞬にまとわりついて離れない。


「俺では駄目なのか」

幾度、瞬に尋ねたことだろう――プライドを捨てて。

「氷河は一輝兄さんじゃないから」

瞬の口調はいつも優しく、瞬の答えはいつも同じだった。



瞬を手に入れるために、俺は一輝という存在の前に膝を屈することさえしたのに。
「おまえが兄を気にかけるのは当然のことなんだろう。だが、その100分の1でもいい。俺を見てくれ」

一輝への対抗意識より、瞬への思いの方が強すぎて、そう訴えずにいられなかったあの時、

「今、僕の前にいるのは、兄さんじゃなく、氷河だよ」

そう言って、瞬は、頬を薄く染めて、俺の唇を受け入れてくれたのだ。 






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