氷河は、自分の目の前で、突然魔法のように2つに増えてしまった香りの壜に、らしくもなく、一瞬あっけにとられていた。 そして、その一瞬間の後、含むような笑い声を洩らす。 笑いながら、彼は瞬に言った。 「離れられないはずだな」 「ごめんなさい……」 「何を謝ってるんだ」 「だって、これじゃ、あんまり間が抜けてるもの。二人して同じこと考えてたなんて」 「だから、離れられないんじゃないか。俺はありがたく受け取るぞ」 「…………」 氷河は、この“間の抜けた”出来事を、心底から楽しんでいるようだった。 明るい青色に戻った氷河の瞳を確かめて、瞬はほっと安堵の息を漏らしたのである。 「あ……僕も。あの……ありがとう、氷河」 「ん……」 氷河もまた、普段のやわらかな表情に戻った瞬に、気を安んじたようだった。 「……冷えるぞ、中に入ろう」 「うん」 確かに、考えようによっては、これは間の抜けたことではなく、あまりにも二人の間が合いすぎていただけのことなのかもしれない。 氷河の胸にすっぽり収まるような格好で肩を抱かれた瞬は、実はほんの少しも寒さなど感じていなかったのだが、氷河の言葉にこくりと小さく頷き返した。 そんな瞬を、更に暖めるものが、空からちらちらと舞い降りてくる。 雪、だった。 |