「星矢は僕を好き?」

突然仲間の顔を覗き込むようにして発せられた瞬の問いに答える前に、星矢は辺りをきょろきょろと見回した。
たとえ、氷河を不快にするような意味合いを含んでいない答えだったとしても、その答えを氷河に聞かれるのはまずい。

その場に氷雪の聖闘士の姿がないことを確認してから、星矢は瞬に頷いた。
「そりゃ、おまえを嫌いな奴なんかいないだろ」

『いないとは言いきれないよ』という小さな呟きを洩らしてから、瞬が言葉を継ぐ。
「星矢の好きな僕の存在が無意味だったら、嫌だよ、僕」

「もし、星矢が僕を嫌いだったとしても、星矢が嫌ってる僕の存在が無意味だったら、それだって星矢に失礼じゃない。星矢は僕ために感情を動かしてくれてるのに……。自分の存在を無意味だと思うことは、自分の周りにいる人たちを無意味だと思うこととおんなじだよ。自分が自分を否定するのは構わないけど、自分以外の人を否定する権利は人にはないでしょう? それって、とても傲慢なことだと思う。自分を否定するってことはね、だから、全てを否定するってことなの。人間だけじゃないよ。星矢を楽しませてくれる歌も花も、星矢を生かしてくれている空気も水も、平和も、そして、闘いすら」

「僕は星矢に会えて良かったと思っている。僕にとって星矢は無意味な存在じゃない。星矢にとっての僕も、だよね?」


瞬は、星矢にそう尋ねて、童子のように無邪気に小首をかしげてみせた。






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