瞬にはもう――否、最初から――わかっていた。 突然饒舌になった無口な男の我儘を、自分が許せてしまっていた訳が。 「でも、今ならわかるでしょう? 氷河が言うべきことが何なのか。氷河が本当に欲しいものは何なのか」 「…………」 それは、我儘を言うことではない。 『同情してくれ』と心にもないことで瞬を脅迫することでもない。 『好きだ』という感情を押しつけることでもない。 “欲しいものは”は“知ること”だった。 “確かめること”だった。 だから、氷河は言葉にしたのである。 「……瞬。おまえは俺を少しでも好きでいてくれるんだろうか」 『おまえを好きだ』と告げることはできても、悪い答えを恐れるあまり、氷河がこれまでどうしても言うことができずにいたその言葉を。 瞬は臆病で我儘で不器用な仲間を見詰め、微笑んだ。 まるで、小学校の教諭が、苦手な算数の問題を必死になって解いた生徒に『大変よくできました』とでも言うかのように。 そして、瞬は、氷河が本当に欲しかったものを、彼に与えてやったのだった。 「大好きだよ、氷河」 ――と、必要なことを一言だけ。 Fin.
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