「おい、瞬! いったい誰を誘う気だよ!」

廊下に出た瞬を、星矢が追いかけてくる。
そんなことを訊いてくる星矢にも、瞬は腹が立った。

「ばっかみたい! 僕が氷河以外の人を僕のバルケッタちゃんの隣に乗せるはずないでしょ。一人でぶっ飛ばしてくるよ」
「…………」

瞬の怒声に、星矢は鳩が豆鉄砲をくらったような顔になった。
それから、彼は、妙に同情的な苦笑を目許に刻んだ。

「おまえ、変なとこで健気だなー」
「自分でもそう思うよ」

ほんの一瞬肩を落としてそう言ってから、瞬は唇を引き結んで顔をあげた。
「氷河に、大馬鹿野郎のコンコンチキって言っといて」


まったくもってその通り、だった。


星矢から、瞬の健気な伝言を聞かされた大馬鹿野郎のコンコンチキは、ますますやる気になってしまったのである。
「瞬の気持ちに報いるためにも、俺はこの武道会で必ず優勝するぞ!」

「氷河ー、そりゃ、ちょっと違うんじゃねーかー?」

この場合は、考えるまでもなく、星矢の見解が正しい。

本当に瞬の気持ちに報いたいのなら、氷河は、この馬鹿げた大会を放棄して、瞬を連れ聖域を出るべきなのである。
しかし、瞬のために命を懸けたバトルに挑めるというロマン(?)に陶酔している今の氷河からは、まともな判断力が失われていた。

つまりは、何を言っても無駄だったのである。






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