「全く、誰だよ。瞬に車なんて持たせた奴は!」 瞬がバルケッタの納車を待たず、星矢や氷河たちと一緒に聖域に来ていれば、そもそもこんなことにはならなかったのである。 瞬と氷河を乗せたバルケッタが視界から消え去ると、星矢は呆れたように呟いた。 彼自身に実害はなかったとはいえ、この武道会で星矢に残されたものは、ただただ疲労感だけだったのだ。 そんな星矢に、思いがけないところから答えが返ってくる。 「俺だ」 「へ?」 その声は、瞬の兄のものだった。 どこからともなく現れるのが趣味の男は、武道会開始から数日間、自分の出番まで岩陰にでも隠れていたのだろう。 「納車を一日遅らせたのも、ギリシャのドライブ旅行を瞬に提案したのも、みんな俺だ」 「あー、それはもしかして、氷河への嫌がらせか?」 「他にどんな理由がある」 反問された星矢と紫龍は、約5分間、“他の理由”を考えた。 そして、 「ない」 という答えを出した。 「なら、そういうことだ」 「…………」 × 2 それにしては壮大に過ぎる嫌がらせだと、星矢と紫龍は思ったのである。 嫌がらせのために、そう安くもない車まで購入するとは、金と手間がかかり過ぎている。 星矢と紫龍の不審を見てとったらしい。 一輝は片眉を少しだけ上げて、彼等に、このイベントの真の黒幕の存在を告げた。 「車の代金を払ったのはアテナだぞ。最近、聖闘士たちがだらけていると言ってな」 「沙織さんが…………」 「アテナが…………」 つまりは、そういうことなのだ。 「このコロッセオも老朽化してたみたいだったしな……」 「壊すだけでも、バルケッタ100台以上の金がかかるし」 「それを片付けるのには、更にバルケッタ200台分の金が必要だろう」 「まともな手段で行ったら、聖闘士たちを働かせることはできそうにないし」 「なにしろ、プライドが高いそうだから」 「壊されたくないイメージもあるらしいしなー」 アテナは、実に合理的に、平時にはただの無駄飯食らいにすぎない聖闘士たちの有効利用を計画し、速やかにその計画を実行に移したのだろう。 真実を何ひとつ知らされていない白銀聖闘士や黄金聖闘士たちは、 「今時の青銅聖闘士は〜!」 「先達に対する尊敬の念がないのかーっ!」 「なんで俺たちが土方の真似なんかせにゃならんのだぁっ !! 」 今は土木建築作業現場と化したコロッセオの瓦礫の中で、不満と怒りと嘆きとぼやきと、そして、槌の音を響かせていた。 Fin.
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