「やっと……俺を呼んでくれた……」
大きな花は、掠れた声で、それでも嬉しそうに小さな花に微笑みかけました。

「大きな花さん……」

茎の途中から手折られて、大きな花は苦しいのでしょう。
あんなに美しくて誇らしげに咲いていた大きな花が、今は痛々しい様子で小さな花を見上げています。

「もっと早く……言えばよかったんだろうか。おまえを好きだと」

大きな花の辛そうな声に、小さな花はぽろぽろ涙を零しました。
「僕も大きな花さんを大好きだったの。ずっとずっと大好きだったの。ずっとずっと言いたかったの。でも、僕は、こんなに小さくてみすぼらしいから……」

「そんなことはない。おまえはとても可愛い花だ。こんなに広い野原で、おまえの側にいられて、俺がどんなに幸せだったかわかるだろうか。側にいてくれるだけで、おまえはいつも俺を幸せにしてくれた」
「大きな花さん……」

ふたりは、もうすぐそこに別れの時が迫っていることを知っていました。
これまで話せずにいた時間を取り戻そうとするかのように、ふたりは心を打ち明け合いました。

強い風から庇ってもらった時、どんなに嬉しかったか。
大雨が降った時も、大きな花の側にいられたからちっとも恐くなかったこと。
お陽様が顔を出さない日が続いた時、大きな花が弱ってしまうのではないかと、とてもとても心配だったこと。

小さな花の可愛らしい様子を、いつもどれほど微笑ましく見詰めていたか。
雨が降っても風が吹いても、小さな花のことばかりが気掛かりだったこと。
小さな花が時々見せてくれる笑顔に、とても胸が高鳴ったこと。

そして、この広い野原で、ひとりきりでないことがどれほど幸せだったのか――。

弱りきった声で、大きな花は告げました。
「おまえの側に、俺の根が残っている。何年かかるかわからないが、俺は必ずおまえの側に戻ってくる。だから……」

「来年も再来年も僕がここで咲いて待ってたら、大きな花さんはもう一度、僕のところに帰ってきてくれるの……?」

悲しみに暮れながら、小さな花は大きな花に尋ねました。


――大きな花からの返事は返ってきませんでした。


小さな花の声は、もう大きな花には聞こえていなかったのです。
小さな花の横で、ついさっきまで力強く咲き誇っていた大きな花は、ひっそりとすべての花びらを大地に伏せてしまっていました。

大きな花の心が土に還ってしまったことを知って、小さな花は広い野原中に響くような悲鳴を響かせたのです。

「どうして僕は、もっと早く、勇気を出して言えなかったの! 自分が小さくても、綺麗じゃなくても、大きな花さんはずっと僕を見ていてくれたのに! 好きだって言って、拒絶されるのが恐かったの? 笑われると思ったの? 大きな花さんがそんなことするはずないって、僕は知ってたのに! だから、僕は大きな花さんが大好きだったのに!」

抜け殻になってしまった大きな花の鮮やかな色の花びらは、小さな花の目の前で、徐々に茶色く変わっていきました。
今では、それは、大きな花だったものの残骸でしかありませんでした。

小さな花は、大きな花だったものの亡骸の上に幾つもの涙を零したのです。