瞬は――瞬は、真面目なのか不真面目なのかの判別もつかない氷河の言動にこらえきれなくなって、ついに吹き出してしまった。 「ほ……蛍を見る時に笑えるかどうかはわからないけど、僕、氷河を見る時はいつも笑っていられそう」 笑いながら瞬の告げたその言葉をどう解釈したものか、氷河はしばし迷った。 そんなにおかしなことを言ったつもりは、氷河自身にはなかったのだ。 全く。 「他ならぬ氷河の頼みだから、きいてあげるよ」 上目遣いに、いたずらっぽい瞳を氷河に向けて、瞬が告げる。 「え…え…っ !? 」 「だから、僕が蛍を見る時には、いつも側にいてね」 瞬の瞳は、先程までのそれと打って変わって明るく輝いていた。 「ほ…蛍を見る時だけじゃなく! 夜はいつも一緒にいてやる!」 調子に乗ってそう口走ってしまってから、慌てて氷河は補足説明を加えた。 「あ、いや、変な意味じゃなくて、おまえは夜になると落ち込みやすくなるみたいだから……」 少々歯切れの良さを欠いた氷河の弁明に、瞬がくすくすと笑い声を洩らす。 「じゃあ、昼間は僕が氷河の側にいてあげるよ」 「…… !!!!!!! 」 氷河の耳には、勝利と歓喜のファンファーレが高らかに、はっきりと、確かに聞こえた。 「暗い顔して思い悩んでばかりいることと、真剣に生きてるってことは、全然違うことなんだね」 そう言って、感動のあまり硬直してる氷河の側に、瞬が寄り添ってくる。 「氷河といると、生きることに真剣になれそう」 蛍の光のように小さな声で、だが楽しそうに、確かめるように、瞬は氷河に囁いた。 「蛍……必死に生きてるんだね」 瞬の肩の上で、しばし指先を空気にもつれさせてから、氷河はその手を瞬の肩に置いたのである。 一つ、深い呼吸をして、氷河は瞬に尋ねた。 「……強くて優しい光だろ?」 自分が一人ではないと信じられるようになった途端に、世界のすべてがまるで違って見える。 「うん」 瞬は、もう一度、ほのかに微笑んだ。 蛍の放つ光は、もう冷たくはなかった。 Fin.
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