昔々、世界の北の果てにある強大な国に、大層美しい王子様がおりました。 王子様の金色の髪は黄金よりも気高く輝き、その青い瞳はサファイアよりも青くきらめいておりました。 さて、この王子様は大変な女嫌いでした。 では、男が好きなのかと言うと、男も嫌いでした。 それならナルシストなのかと思うところですが、王子様は自分もあまり好きではありませんでした。 要するに人間嫌いだったのです。 王子様は、やがて国を治める王様になるわけですから、立派な先生方について色々な勉強をしていました。たくさんの書物も読んでいました。 王子様は、それらの書物から、人間の醜いところばかりを知りすぎたのかもしれません。 しかし、一国の王子がそれでは困ります。 しかるべき姫君を妻に迎え、次代の王をもうけるのが王子の第一の務めというものです。 性格はともかく顔はいいし、頭もいいし、なにしろ強大な国の王子様ですから金に不自由はありません。 お后候補はいくらでもいたのですが、どんなに美しい姫君に会っても、肖像を見せられても、話を聞かされても王子様の答えは『NO』。 いくら説得しても、結婚する気にならない王子様に腹を立てた王様は、 「氷河! 貴様、もっとクールになれ!」 と言って、おしおきに、王子様を氷の塔に閉じ込めてしまいました。 なにしろ不自由のない生活に慣れている王子様、不自由な場所に閉じこめておけばすぐに音をあげるだろうと、王様は考えたのです。 しかし、人間嫌いで礼法嫌いの氷河王子にとって、自分以外の誰もいない氷の塔は天国以外の何物でもありませんでした。 氷河王子は、の〜んびりと、誰の目も気にしなくていい塔での生活を楽しんでいたのです。 |