お話を北の国に戻しましょう。

氷河王子が閉じ込められた氷の塔には、昔から、ヒルダという魔女神が住んでいました。
ヒルダは、これまで無人だった塔の部屋に灯りが灯されたのを見て怪訝に思い、塔の窓からそっと中を覗いてみました。

そこには、王様のおしおきを受けて塔に閉じ込められた氷河王子が、閉じ込めた父王や重臣たちの気も知らず、平和かつ呑気に眠っておりました。

「あら〜、これはなかなかなかなか綺麗な王子様だこと」

人間は、眠っている時は誰しも天使。
魔女神といえど、氷河王子の寝顔から、世を拗ねた性格を読み取ることはできません。
口をききさえしなければ、氷河王子は、とにかく美しい王子様だったのです。


とはいえ、魔女神ヒルダは、もう少し成長した男の方が好きだったので、氷河王子の美貌にひとしきり感嘆すると、いつものように夜の散歩をするために、北の国の空高く舞いあがりました。



で、魔女神ヒルダは、北の国と南の島の真ん中あたりの空中で、彼女の仲間である魔神ハーデスに出会ったのです。

ハーデスの様子がいつもと違うので、
「どうしたの?」
と尋ねると、魔神ハーデス答えて曰く、
「うむ。余は、ついさっき、アンドロメダ島というところで、瞬という名の、ちょー可愛い男の子を見付けたんだ。新鮮なバラの蕾のように可愛い子だった。いやー、目の保養、目の保養」

「…………」


魔神ハーデスの縄張りである南の国は、実り豊かな国でした。
北の国を縄張りにしている魔女神ヒルダは、そんなハーデスに、いつも、
「でも、人間は、北の国に住む者たちの方が綺麗よ。金髪が多いし、肌も白くて」
と対抗しておりましたので、ここで黙ってはいられません。

「あら、今夜、私の見た王子もとても綺麗だったわよ。あれは成長したら、とても私好みのいい男になると思うわ」
「それなら、余の見た瞬の方が可愛いだろう。瞬は今、まさに今、最高に可愛いんだ。余は、思わず、瞬が永遠に今のままの姿でいられるよう魔法をかけてきてしまった」

「あーあ、いけないことしてるんだ。じゃ、私も氷河王子に魔法をかけちゃおっかな。あと5歳分くらい大人にしちゃうの。そしたら、そんな瞬なんて子よりずっといい男になるわよ、あの王子様は」

「何を言う。瞬の方がずっと可愛いに決まっておろう」
「何よ、男を見る目は私の方がずっと上よ」
「そなたの目など信用できん」
「なーんですってー !! 」
――と押し問答をしていても始まりません。

賢明なヒルダとハーデスは、口争いは適当なところで切り上げて、実際に氷河王子と瞬とを比べてみることにしたのです。






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