「今日は静かだな」
開口一番がこれである。

氷河は苛立っているのだ。
倒すべき相手の訪問がないことに。

「なんだか、この頃の氷河、敵が攻めてくるのを楽しみにしてるみたいだよ」
瞬の言葉には、切なさが乗っていた。

「そんなことはない」
「でも……」
「手応えがなさ過ぎてつまらないだけだ。俺たち青銅聖闘士より1ランク上の白銀聖闘士と言うから期待していたのに、これならブラックたちの方がまだましだったぞ」
「氷河、だからって……」

氷河は、好んで殺そうとするのだ。
殺す必要はない、傷付ける必要もない、話して理解が得られるのであれば闘う必要すらない相手を。

「おまえはやり過ぎなんだよ」
「悪党に容赦する必要はあるまい」
「でも、あの人たちは――自分が何をしているのかもわかってなくて、ただ聖域の命令に従っているだけの人たちがほとんどなんだと思うよ、僕」
「そんなことは俺の知ったことじゃない。俺たちは俺たちが正しいと信じて戦っているが、もし負けたら、正しいのは俺たちじゃなく、聖域の方だったということになる。これは負けられない戦いなんだ」
「でも、氷河……」

それは、瞬もわかっているのだ。
互いの正義の根拠が違うせいで争いが生じることも、真実ではなく、勝った者の認める価値こそが正しいものとされる現実も。

「ふん、おまえは甘すぎるんだ。いつか、それが命取りになるぞ」
「氷河……」

しかし、瞬にとって、戦いとは、迷い苦しみながらすべきものだった。
苦悩のない戦いは、ただの殺戮である。
そして、氷河は、それをしているのだ。


「ふん」
切なげな眼差しを投げかけてくる瞬を一瞥して、氷河はすぐに踵を返した。

氷河は、敵の襲来の有無を確認するために、仲間の許にやってきただけのようだった。






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