氷河は、だが、後悔していた。
本当に心底から。

“儀式”を終えて、今、彼の下にいる瞬は、予想してもいなかった嵐に遭遇し、翻弄され尽くした一枚の木の葉のようだった。

「瞬……」

今更ながらの罪悪感に責められながら、その名を呼んだ氷河に、瞬は、
「痛い」
潤んだ瞳でそれだけ言った。

瞬は、苦痛ばかりのその儀式を耐え抜いたことを誉めてもらいたがっている子供のようでもあり、あるいは――自制心を欠いた我儘な男を、それでも許そうとする傷付いた天使のようでもあった。


「悪かった……。少しでも早くおまえを俺のものにしてしまわないと不安で――不安だった……」

項垂れてしまった氷河の頬に、瞬が少しばかり辛そうに手を伸ばし、触れる。
そうして、瞬は氷河に尋ねてきた。

「氷河が僕にしたかったことって、こんなことなの」


「……違う」

かなりの間を置いて返ってきた答えに、瞬は安堵したように微かに微笑んだ。
「じゃあ、氷河のしたかったことをして。そしたら、許してあげる」

「…………」

咄嗟に瞬の言葉の意味を理解しかねて、そして、やがて理解して、氷河は初めて瞬の唇に自分の唇を重ねていった。






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