5分後、無事Aくんの前にも、今日の分の給食が一人分。 えぐえぐ泣いていたAくんもやっと泣きやんで、みんな揃って、 「いただきまーす!」 瞬ちゃんは、Aくんが泣きやんだのでほっとしました。 そして、みんなと一緒に『いただきます』を言って、今日の給食を食べようとしたのです。 ところが。 声高に捕鯨禁止が叫ばれているこの時代に何ということでしょう。 今日のメニューは鯨の竜田揚げ。 その昔、まだまだ普通のスーパーで鯨の缶詰が売られていた頃、それはとてもメジャーなお惣菜でした。 そして、大抵の小学生は、鯨の竜田揚げが嫌いでした。 もちろん、瞬ちゃんも大嫌いです。 「あ……」 鯨の竜田揚げのせいで、瞬ちゃんは泣きそうな顔になってしまいました。 その時です。 その時でした。 瞬ちゃんのお皿の鯨の竜田揚げにロシアのお友達のフォークがざくっ☆ と突き刺さったのは。 ロシアのお友達は、そうして、瞬ちゃんの鯨の竜田揚げを、無言でばくばく食べ始めたのです。 「あ……あの……」 泣きそうな顔のまま驚いた瞬ちゃんが、ロシアのお友達を天使様でも見るような眼差しで見詰めると、瞬ちゃんの鯨の竜田揚げを食べきったロシアのお友達は、やっぱり、無言で瞬ちゃんを見詰め返していました。 「あ…ありがとう、え…と、ロシアのお友達」 「氷河」 「氷河くん、ありがとう」 「氷河」 「え…? だから……」 「氷河」 どうしてロシアのお友達がぶっきらぼうな口調で自分の名を繰り返すのか、最初のうち、瞬ちゃんはよくわかりませんでした。 「氷河くんじゃない。氷河」 そう言われて初めて、瞬ちゃんはロシアのお友達が何を言いたかったのかわかったのです。 素直な瞬ちゃんは、もちろんすぐににっこり笑って、ロシアのお友達にもう一度お礼を言いました。 「ありがとう、氷河!」 瞳を潤ませた瞬ちゃんにお礼を言われても、ロシアのお友達は小さく頷くだけの無表情。 瞬ちゃんは、ロシアのお友達はとてもクールな男の子なんだな、と思いました。 けれど、本当は。 ロシアのお友達は、胸の中で、 『俺の瞬が喜んでくれたー!!!! ♪♪』 と、勝手に所有格をつけた上、瞬ちゃんの名を呼び捨てで狂喜乱舞していたのです。 ロシアのお友達はクールなのじゃなく、好きな子の前では、とっても照れ屋さんなだけだったのでした。 |