音楽の時間は、歌の発表をすることになっていました。 クラスのみんなは、一人ずつアルビオレ先生の弾くピアノの横に行って、『春の小川』を歌いました。 瞬ちゃんも、歌はそんなに得意ではなかったのですが、一生懸命歌いました。 瞬ちゃんが歌い終わると、ロシアのお友達は、他の子が拍手をするのをためらうくらい大きな音をたてて拍手をしました。 そうしてみんなが歌い終わり、アルビオレ先生は次の曲をみんなに教え始めようとしたのです。 ロシアのお友達がまだ歌っていないのに。 瞬ちゃんは慌てて手をあげて、アルビオレ先生に言いました。 「先生、氷河くんがまだ歌ってません!」 「え? あ…あー……」 瞬ちゃんは、最初、アルビオレ先生は、ロシアのお友達に歌を歌わせるのをうっかり忘れただけなのだと思っていたのです。 けれど、アルビオレ先生は、少し困ったような顔をして、瞬ちゃんに言いました。 「しかし、氷河くんは、学年も違うことだし、歌を歌う必要はないだろう」 「そんな! 氷河はいつもみんなとお勉強してるクラスの仲間なのに、先生は、学年が違うだなんて、そんな理由で氷河を仲間はずれにするんですかっ !? 」 仲間はずれにするも何も、そもそもロシアのお友達は2年1組の仲間ではありません。 「いや、それは……」 『学年が違うこと』を『そんな理由』と言い切ってしまう瞬ちゃんに、アルビオレ先生は大弱りです。 アルビオレ先生は、ロシアのお友達にはちょっと困っていましたが、瞬ちゃんは素直な良い子だと思っていました。 ですから、瞬ちゃんの優しい心を、『でも、氷河くんの通知表を作るのは私じゃないんだ』なんて言葉で踏みにじることはしたくありませんでしたし、できなかったのです。 そこに。 アルビオレ先生の窮地を救う、ロシアのお友達の声。 「瞬、俺はいいんだ、仲間はずれにされても。おまえがいてくれれば」 ロシアのお友達はそう言って、微かに左右に首を振りました。 「氷河……でも、それじゃ、氷河がかわいそうだよ……」 ロシアのお友達の静かな眼差しに、瞬ちゃんは胸が締めつけられる思いでした。 そして、涙がぽろぽろ零れてきました。 「いいんだ、俺は、おまえだけで」 みんなに仲間はずれにされてしまったら、それが自分だったら、僕は悲しくて悲しくて泣いてしまう――と、瞬ちゃんは思いました。 なのに、ロシアのお友達は泣くどころか、泣き言ひとつ口にしません。 瞬ちゃんは、でも、だからこそ、ロシアのお友達は心の奥底でじっと耐えているのだろうと思ったのです。 その強さにとってもとっても感動したのです。 「氷河ぁ… !! 」 でも、だから。 その強さが悲しくて、瞬ちゃんはロシアのお友達の胸に飛びこんで、あんあん泣き出してしまったのでした。 ロシアのお友達、大ラッキー !! ロシアのお友達は、融通のきかないアルビオレ先生に感謝しつつ、瞬ちゃんの髪や肩を撫で撫でしてあげたのでした。 |