投票は即日開票ということになっていました。

当確の一報を待ちわびるロシアのお友達選挙事務所に、伝令が走ってきたのは、マーマが祝賀パーティの準備を終えて、PTA婦人会のお母さん方と一緒に番茶をすすっている時でした。

「たたたたたたたた大変ですーっっ !!!!  ミルメークは……ミルメークはもう……」

この非常事態をマーマに知らせるために、伝令さんは必死の思いで走ってきたのでしょう。
ロシアのお友達選挙事務所に辿り着くなり、伝令さんは力尽きてその場に倒れ込んでしまいました。

「どうしたって言うの !?  しっかりなさい!」
マーマの気合一発で息を吹き返した伝令さんは、喉をぜいぜい言わせながら、驚愕の真実をマーマに告げたのでした。

「ミルメーク、敵方の手に落ちる」
――と。

それは本当に一大事でした。


ミルメークは給食業者による納品物です。
その業者と密接な関係にある給食のおばちゃんはカミュ先生派。
ミルメークは、PTA婦人会に渡る前にカミュ先生の懐中に収まってしまったのでした。

「なんてこと……」
マーマの受けたショックは並大抵のものではありませんでした。
この選挙の全てが、ミルメークにかかっているというのに、その正義の剣・ミルメークが、悪の大王カミュ先生の手に落ちてしまったら、地上の平和と正義は失われてしまうではありませんか。

ミルメークを奪われたショックから立ち直れずにいるマーマの許に、更なる衝撃が訪れます。
それは、第1の伝令の後を追うように駆けてきた第2の伝令からの報告でした。

「裏筋によると、投票数はこちらが1票差で負けています!」
「なんですって !? 」

愛の勝利の祝賀パーティの、ケーキやハンバーグやカレーライスやスパゲティやおすしやタコさんウインナやジュースや豆乳デザートは無駄になってしまうのでしょうか。
そんなことがあってはなりません。
絶対に、それだけは避けなければなりませんでした。


その時。
不安げに寄り添うロシアのお友達と瞬ちゃんに目をやったマーマは、あることに気がつきました。

「投票締め切りは4時だったわね? 今何時 !? 」

時計の針は4時5分前を指していました。

「氷河! 瞬ちゃん! 行くわよ!」
叫ぶや否や、マーマはロシアのお友達と瞬を両脇に抱えて猛烈な勢いで走り出しました。
その速いこと速いこと、エイトマンもびっくりな速さです。



「投票用紙をちょうだい!」

マーマが投票会場に着いたのは3時57分でした。

「考えてみれば、あななたたちはまだ投票してなかったのよね。時間がないわよ、早くお書きなさい! どうしたの、氷河! 急ぐのよ!」

「…………」
投票用紙と鉛筆を手にして、ロシアのお友達はとても困っていました。

ロシアのお友達は、瞬ちゃんの名前はともかく、自分の名前が漢字で書けなかったのです。

無事に自分の分の投票を済ませてから、瞬ちゃんは、ロシアのお友達の異常事態に気がつきました。
「氷河……どうしたの?」


ロシアのお友達、一世一代の大ピンチ!


残り時間、1分28秒。

果たして、二人の恋の行方は……?






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