「というわけで、氷河は瞬ちゃんに心配かけたことをとても反省して、大人になる修行を始めることにしたのよ」 「大人になる修行?」 「そうよ」 とても真剣な表情で頷くマーマの言葉を、瞬ちゃんもまた身を引き締めるようにして聞いていました。 「これから、氷河は湯船に入りっぱなしで、中華キャノンごっこなんて子供じみたことはしません。代わりに、冷水を頭からかぶる修行を始めることにしたの」 「冷水?」 「そうよ。氷河は、瞬ちゃんを見て興奮……違った、瞬ちゃんとお風呂に入ってて中華キャノンごっこをしたくなったら、頭から冷水をかぶって、興奮を鎮め……違った、自分を戒めることにしたの。滝に打たれて修行するようなものね」 「でも、そんなことして、氷河が風邪をひいたりしたら……」 マーマの言う修行方法は随分と過酷なものです。 夏場ならともかく、冬場にお風呂場で冷水なんかかぶったら、いくらロシアのお友達が寒さに強いと言っても身体を壊してしまうのではないかと、瞬ちゃんはとても心配でした。 「氷河は瞬ちゃんのために大人になろうと決意したの。暖かい目で見守ってあげてちょうだい。もし氷河が風邪をひいたら、その時は、瞬ちゃん、氷河を看病してあげてくれる?」 「もちろんです!」 瞬ちゃんは即座に、そして、きっぱりとマーマに答えました。 「その言葉を聞いたら、きっと氷河も喜ぶわ……」 瞬ちゃんには嬉し泣きに見えるマーマの涙は、本当はそんなものではありませんでした。 それは、愛のために、あえて試練の道を選んだ我が子の強さを哀しむ涙だったのです。 「もうちょっと……もうちょっと氷河が大人になるまで待ってあげてね」 瞬ちゃんのために無理に口にのぼらせる建前が、マーマは辛くてなりませんでした。 マーマはいっそ、 『瞬ちゃん、氷河のために早く大人になってちょうだいーっ !! 』 と、本当の気持ちをぶちまけてしまいたかった。 けれど――。 「大丈夫です! 氷河が大人でも子供でも、僕は氷河が大好きだもの。氷河が頑張るのなら、僕、全面的に強力します !! 」 瞬ちゃんの清らかな、そして幼いながらも真剣な愛が、すべてをぶちまけてしまいたいというマーマの衝動をあっさりと抑え込んでしまったのでした。 「ありがとう、瞬ちゃん……」 ロシアのお友達と瞬ちゃんの一途な思いが悲しくて、マーマは、そっとレースのハンカチで目頭を押さえたのでした。 |